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Uber×Pony.ai×Verne、欧州初の商用ロボタクシーをザグレブで始動

ヨーロッパに、ついに「完全無人」のロボタクシーがやってくる。 Uber、中国の自動運転テック企業 Pony.ai、そしてクロアチアのモビリティスタートアップ Verne の3社が、クロアチアの首都ザグレブで欧州初の商用ロボタクシーサービスを2026年内に開始する計画を発表した。使用される車両は中国 BAIC 製の電動SUV「Arcfox Alpha T5」をベースにした自動運転車で、Pony.ai の第7世代自動運転スタック(AD Stack)を搭載する。

このニュースが重要なのは、単にヨーロッパで初めてロボタクシーが走るという事実だけではない。**米国のライドシェア最大手(Uber)、中国の自動運転リーダー(Pony.ai)、欧州のローカルスタートアップ(Verne)**という3つの異なる地域・専門性を持つ企業が協業するという、自動運転業界では前例のないモデルが確立されつつあるのだ。

3社協業の全体像

Uber——配車プラットフォームと投資

Uber は今回のプロジェクトにおいて「配車プラットフォーム」としての役割を担う。Uber アプリ上で乗客がロボタクシーを呼べるようになり、決済、カスタマーサポート、保険対応も Uber の既存インフラを活用する。加えて、Uber は Verne に対して戦略的投資も実施し、ザグレブでのサービス開始を資金面からも後押しする。

Uber にとって、自動運転への関与は近年急速に深まっている。2020年に自社の自動運転部門 ATG を Aurora に売却して以降は「自社開発しない」戦略に転換し、代わりに Waymo、Motional、Wayve など複数の自動運転企業とパートナーシップを構築してきた。Pony.ai との提携もその延長線上にある。

Pony.ai——自動運転技術の提供

Pony.ai(小馬智行)は2016年に中国・広州で設立された自動運転テクノロジー企業で、2024年にNASDAQに上場した。同社はLevel 4 自動運転(特定条件下での完全自動運転)に特化しており、中国国内では北京、上海、広州、深圳の4都市でロボタクシーサービスを商業展開している。

今回のザグレブ展開では、Pony.ai が自動運転ソフトウェアとセンサースタックを提供する。同社の第7世代 AD Stack は、LiDAR・カメラ・ミリ波レーダーを統合したセンサーフュージョン技術を採用し、都市部の複雑な交通環境でも安定した自動運転を実現する。累計走行距離は2,500万km以上に達しており、中国の自動運転企業としてはトップクラスの実績を誇る。

Verne——車両運営とローカライゼーション

Verne は2024年にクロアチアのザグレブで設立されたスタートアップで、ロボタクシーのフリートオペレーション(車両管理・保守・充電)を専門とする。CEOの Mate Rimac は電動ハイパーカーメーカー Rimac Automobili の創業者でもあり、自動車技術と起業家精神の両面で実績を持つ。

Verne の役割は、Pony.ai の自動運転技術を搭載した車両を実際に運行・管理することだ。BAIC Arcfox Alpha T5 をベースに、ロボタクシー専用のカスタマイズ(乗客インターフェース、遠隔監視システム、自動洗車・充電ステーションの構築)を行う。

以下の図は、世界の主要ロボタクシー企業の展開都市数を比較したものだ。

世界の主要ロボタクシー企業の展開都市数を比較した棒グラフ。Pony.aiが2026年末に20都市を目標としており最多。Waymo 6都市、Baidu Apollo 11都市、XPeng 3都市、Zoox 4都市、Wayve 2都市。

この図が示すように、Pony.ai は2026年末までに世界20都市への展開を目標としており、これは既存のロボタクシー企業の中でも最も野心的な計画だ。Waymo の6都市やBaidu Apollo の11都市と比較しても、そのスケールの大きさが際立つ。

使用車両——BAIC Arcfox Alpha T5

ザグレブで運行されるロボタクシーのベース車両は、中国の自動車大手 BAIC(北京汽車集団)傘下のEVブランド「Arcfox」が製造する電動SUV Alpha T5 だ。主なスペックは以下の通り。

項目仕様
車種Arcfox Alpha T5(電動SUV)
メーカーBAIC(中国)
航続距離約600km(CLTC基準)
バッテリー容量66.8kWh
モーター出力160kW(約218馬力)
自動運転センサーLiDAR × 3、カメラ × 8、ミリ波レーダー × 5
自動運転レベルLevel 4(Pony.ai AD Stack)
乗客定員4名
車両価格(ベース)約$30,000(約450万円)

注目すべきは、中国メーカーの車両が欧州のロボタクシーサービスに採用されるという事実だ。これまでヨーロッパの自動運転プロジェクトでは、欧州メーカー(Mercedes-Benz、BMW、Volvo等)の車両が主に使われてきた。コスト競争力の高い中国製EVが自動運転用途でも存在感を示し始めていることを象徴するケースと言える。

Pony.aiの世界展開戦略——20都市3,000台の野望

Pony.ai は2026年を「グローバル・スケーリングの年」と位置づけ、以下の計画を発表している。

2026年の展開計画

地域都市台数(目標)状況
中国北京、上海、広州、深圳1,000台以上既に商業運行中
中国(新規)杭州、成都、武漢、長沙、合肥500台以上2026年中に開始予定
中東アブダビ、リヤド200台アブダビは2025年12月に試験開始済み
欧州ザグレブ50〜100台2026年後半に開始予定
東南アジアシンガポール、バンコク検討中パートナー選定段階
日本未定検討中自動車メーカーとの協議中
合計目標20都市3,000台

なぜ中東と欧州を優先するのか

Pony.ai がアメリカではなく中東・欧州を優先する背景には、いくつかの戦略的理由がある。

規制環境の違い: 米国では各州ごとに自動運転の規制が異なり、カリフォルニア州やアリゾナ州では許可取得に数年かかることも珍しくない。一方、アブダビ(UAE)やクロアチアは自動運転に対して積極的な規制方針を採っており、許可取得プロセスが比較的スムーズだ。

地政学的考慮: 米中間の技術摩擦により、中国企業が米国で自動運転サービスを展開するハードルは年々高まっている。データセキュリティへの懸念から、米国議会では中国製自動運転車の規制強化法案も提出されている。中東・欧州はこうした地政学的リスクが相対的に低い。

パートナーの存在: Uber はグローバルなプラットフォームを持ち、米国以外でのロボタクシー展開にも積極的だ。Verne のような現地パートナーが車両運営を担うことで、Pony.ai は技術提供に集中できる。

競合分析——ロボタクシー戦国時代

世界のロボタクシー市場は、2026年に入って急速にプレイヤーが増えている。以下は主要企業の比較だ。

企業本拠地技術方式展開地域台数特徴
Waymo米国モジュール型フェニックス、SF、LA、マイアミ、東京(計画)、アトランタ約1,500台Google傘下、HDマップ依存、安全性実績トップ
Pony.ai中国モジュール型中国4都市 + アブダビ + ザグレブ(計画)約800台NASDAQ上場、Uber提携、急速なグローバル展開
Baidu Apollo中国モジュール型中国11都市約1,200台中国最大規模、武漢で大規模運行
Zoox米国専用設計車両SF、ラスベガス、オースティン、フォスターシティ約200台Amazon傘下、双方向走行の専用車両
XPeng Mona中国エンドツーエンド広州、北京、上海約300台低コスト路線、$25,000からの車両
Wayve英国エンドツーエンドロンドン、東京(計画)テスト段階AIファースト、HDマップ不要、日産・Uber出資

技術方式の違い

ロボタクシー企業の技術方式は大きくモジュール型エンドツーエンド型に分かれる。

モジュール型(Waymo、Pony.ai、Baidu Apollo)は、認識・予測・計画・制御を個別のモジュールで処理する伝統的なアプローチだ。各モジュールを独立して最適化できるため信頼性が高い反面、HDマップへの依存度が高く、新都市への展開には時間がかかる。

エンドツーエンド型(Wayve、XPeng Mona)は、センサー入力から制御出力までを1つの統合AIモデルで処理する。HDマップが不要で新都市への展開が迅速だが、AIモデルの判断根拠が不透明(ブラックボックス)になりやすいという課題がある。

Pony.ai のモジュール型アプローチは、ザグレブのような新しい都市でもHDマップの作成が必要になるが、同社は中国国内で培ったマッピング技術と現地パートナー Verne の協力により、このプロセスを大幅に短縮できるとしている。

以下の図は、ロボタクシーサービスが利用者にどのように提供されるかのフロー、および3社の役割分担を示している。

ロボタクシーサービスの仕組みフロー図。Uberアプリでの配車リクエストからAI配車判定、Pony.aiの自動運転走行、乗客ピックアップ、自動決済までの5ステップと、車両ハードウェア(Verne)・自動運転ソフトウェア(Pony.ai)・配車プラットフォーム(Uber)の技術スタック構成。

この図が示す通り、利用者の体験は通常の Uber とほぼ同じだ。アプリで配車をリクエストし、自動運転車が到着したらアプリで解錠して乗車、目的地に到着したら自動決済——というシームレスな流れになる。裏側では Verne が車両の運営・保守を、Pony.ai が自動運転技術を、Uber が配車・決済基盤をそれぞれ担当する「3社分業モデル」が機能している。

ヨーロッパの規制環境——なぜザグレブが選ばれたのか

ヨーロッパは自動運転に関する規制が国ごとに大きく異なる。ドイツやフランスは自動運転の法整備が比較的進んでいるが、実際の商用展開には依然として高いハードルが存在する。

クロアチアの規制優位性

ザグレブが欧州初のロボタクシー都市として選ばれた理由は複数ある。

  1. Mate Rimac のネットワーク: Verne の CEO Mate Rimac は、Rimac Automobili でクロアチアの自動車産業を世界的に知られる存在にした人物だ。クロアチア政府との関係も深く、自動運転の特区認定を取得するための政治的パイプラインがある。

  2. EU加盟国としてのスケーラビリティ: クロアチアは2013年にEUに加盟している。ザグレブでの運行実績は、EUの自動運転フレームワーク(CCAM: Connected, Cooperative and Automated Mobility)に基づく承認取得にも活用でき、将来的にEU域内の他都市への展開パスが開ける。

  3. 都市の規模と交通環境: ザグレブは人口約80万人の中規模都市で、交通量が過度に多くないため自動運転のテスト・運行環境として適している。パリやロンドンのような大都市でいきなり展開するよりもリスクが低い。

  4. 規制の柔軟性: クロアチアは新技術に対して比較的オープンな規制方針を採っており、サンドボックス制度(規制の特例措置)を活用した自動運転の試験運行が可能だ。

EU全体の動向

EUでは2024年にレベル4自動運転車の型式認定に関する規則(UN Regulation No. 157の拡張版)が採択されており、2026年以降、各加盟国で商用ロボタクシーの許可申請が可能になる見通しだ。ドイツでは2022年に世界初のレベル4自動運転法を施行しており、英国も2024年に Automated Vehicles Act を成立させた。クロアチアが先行することで、EU圏内でのロボタクシー普及に弾みがつく可能性がある。

Uberの自動運転戦略——「プラットフォーム・ファースト」の進化

Uber は自動運転に対して「自社開発しない、パートナーシップで拡大する」というプラットフォーム戦略を取っている。これは2020年の ATG 売却以降に明確化された方針で、現在は以下のような多角的なパートナーシップ網を構築している。

パートナー地域車両状況
Waymo米国(フェニックス、アトランタ)Jaguar I-PACE商業運行中
Motional米国(ラスベガス)Hyundai IONIQ 52025年に事業縮小
Wayve英国(ロンドン)複数車種テスト段階
Pony.ai / Verne欧州(ザグレブ)BAIC Arcfox Alpha T52026年後半開始予定
Aurora米国(テキサス)トラック(貨物)貨物自動運転に特化

Uber CEO の Dara Khosrowshahi は決算説明会で「我々は世界最大のモビリティプラットフォームであり、自動運転車は我々のネットワーク上の1つの車両タイプに過ぎない」と述べている。つまり、Uber にとって自動運転車は、人間ドライバーの車やUberX、Uber Black と並ぶ選択肢の1つという位置づけだ。

この戦略の利点は、特定の自動運転技術に依存しないことでリスクを分散できる点にある。仮に Pony.ai の技術に問題が生じても、別のパートナーに切り替えることができる。逆に、自動運転技術企業の側からすれば、Uber の1.5億人以上のユーザーベースに即座にアクセスできるメリットは計り知れない。

日本への影響——日産・Wayve東京計画との関連

日本のロボタクシー事情にも、今回のニュースは間接的に影響を与える。

日産 × Wayve の東京計画

2026年2月、Wayve は日産自動車からの出資を受け、2027年に東京都内でロボタクシーの試験運行を開始する計画を発表している。Wayve のエンドツーエンド型自動運転技術は、HDマップが不要であるため、東京の複雑な道路環境にも比較的短期間で対応できるとされている。

Pony.ai のザグレブ展開が成功すれば、「海外の自動運転技術×現地パートナー×配車プラットフォーム」という3社分業モデルが有効であることが実証され、日本でも同様のモデルが検討される可能性がある。

日本の規制環境

日本では2023年4月に改正道路交通法が施行され、レベル4自動運転の公道走行が解禁された。しかし、実際にロボタクシーが商業運行するには以下の課題がある。

  • 運行設計領域(ODD)の限定: 現在許可されているのは特定ルート・時間帯に限定されたサービスが中心
  • 遠隔監視者の配置義務: 完全無人化にはまだハードルがある
  • 保険・事故対応の法整備: 自動運転車の事故における責任分担が明確でない部分がある
  • 地方自治体の対応: 都道府県ごとに対応温度差がある

ホンダ × GM Cruise の国内計画

ホンダは GM の Cruise 部門と提携し、2026年中に東京都心部でのロボタクシーサービス開始を目指している。Cruise の事業は2023年のサンフランシスコでの事故を受けて一時停止した経緯があるが、GM が Cruise を完全子会社化し再建中だ。ホンダは自社開発の車両「Cruise Origin」の改良版を日本市場向けにカスタマイズしている。

Uber × Pony.ai × Verne のザグレブモデルが成功すれば、日本でも「海外自動運転技術+国内自動車メーカー+配車プラットフォーム(GOやS.RIDEなど)」という組み合わせでロボタクシーが実現する道筋が見えてくる。

ロボタクシーの料金と経済性

ロボタクシーの料金体系は、普及の鍵を握る最重要ファクターの一つだ。

各社の料金比較

サービス都市料金目安(3kmの乗車)人間ドライバーとの比較
Waymo Oneサンフランシスコ約$12(約1,800円)Uber X と同等〜やや安い
Baidu Apollo Go武漢約¥8(約160円)タクシーの1/3以下
Pony.ai(中国)広州約¥12(約250円)タクシーの約半額
Uber × Pony.ai × Verneザグレブ(予定)未発表通常の Uber と同等を目標

中国では政府補助金もありロボタクシーの料金は既存タクシーより大幅に安い。一方、米国やヨーロッパでは車両コスト・保険料・規制対応コストが高いため、当面は既存のライドシェアと同等の料金設定になると見られている。

ロボタクシーの経済的メリットは長期的なコスト構造の改善にある。ドライバー人件費(通常、ライドシェア売上の50〜70%を占める)がゼロになるため、台数が増えて固定費が薄まれば、将来的には既存タクシーの半額以下での運行が可能になる。Morgan Stanley の試算では、2030年までにロボタクシーの1マイルあたりコストは**$0.35**(通常のタクシーの約1/4)まで低下すると予測されている。

安全性とリスク

ロボタクシーの商用展開において、安全性は最大の懸念事項であり続ける。

Pony.aiの安全性実績

Pony.ai は公式に「2,500万km以上の累計走行距離で重大事故ゼロ」を主張している。ただし、この数字には遠隔操作者が介入して回避したケース(ディスエンゲージメント)も含まれておらず、独立した第三者検証は限定的だ。

中国の自動運転車の安全性データは、米国の NHTSA(国家道路交通安全局)のようなオープンな報告制度がないため、透明性に課題がある。ザグレブでの運行開始にあたっては、EU の安全基準に基づく独立監査が実施される見通しだ。

遠隔監視体制

ザグレブのロボタクシーには遠隔監視オペレーターが常時接続される。車両が自動運転で対処できない状況(工事現場の迂回、緊急車両への対応など)に遭遇した場合、オペレーターが遠隔で車両を制御できる。Verne がこの遠隔監視センターをザグレブ市内に設置する予定だ。

まとめ——ロボタクシーのグローバル拡大が加速

Uber × Pony.ai × Verne のザグレブプロジェクトは、ロボタクシーの地理的拡大における重要なマイルストーンだ。これまで米国と中国に集中していた自動運転の商用サービスが、ヨーロッパにも広がることで、世界的な普及に弾みがつく。

Pony.ai の「2026年に20都市3,000台」という目標は非常に野心的だが、Uber のプラットフォームと Verne のようなローカルパートナーを活用する分業モデルが機能すれば、達成の可能性は十分にある。地政学的リスクを回避しながら中東・欧州を優先する戦略も、中国企業としては合理的な選択だ。

日本のモビリティ市場にとっても、この動きは無関係ではない。日産 × Wayve の東京計画、ホンダ × Cruise の国内展開と合わせて、2026〜2027年は日本におけるロボタクシー元年になる可能性がある。

今後のアクションステップ

  1. モビリティ業界関係者: Uber × Pony.ai × Verne の3社分業モデルを研究し、日本市場での「海外自動運転技術+国内オペレーター+配車プラットフォーム」の組み合わせを検討する。特に GO や S.RIDE などの国内配車サービスとの連携可能性を探る。

  2. 投資家: Pony.ai(NASDAQ: PONY)の株価動向と、同社の20都市展開計画の進捗をウォッチする。中東・欧州市場でのロボタクシー需要を見極め、関連銘柄(Uber、BAIC、センサーメーカー等)のポートフォリオを検討する。

  3. テック・自動車業界の技術者: Pony.ai のモジュール型と Wayve のエンドツーエンド型、両方の技術動向を継続的にフォローする。特にEUの CCAM フレームワークにおける自動運転の型式認定基準は、今後のグローバルスタンダードに影響するため要注目だ。

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