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Aeva、4Dライダーで自動運転とロボティクスの距離測定を革新

自動運転車のセンサーとして広く使われているLiDAR(ライダー)。レーザー光で周囲の3D空間をマッピングするこの技術は、Waymoをはじめとするロボタクシー企業の「目」として不可欠な存在だ。だが、従来のLiDARには大きな弱点がある——距離は測れるが、対象物の速度はリアルタイムに取得できないのだ。

この根本的な制約を打破しようとしているのが、シリコンバレー発のLiDAR企業 Aeva Technologies(NASDAQ: AEVA) である。同社が開発するFMCW(周波数変調連続波)方式の4Dライダーは、距離(3D座標)に加えて各点の瞬時速度を1回のスキャンで同時取得できる。つまり「4次元目」として速度情報を持つ点群データを生成する世界初の量産型LiDARだ。

累計資金調達額は約$400M(約600億円) 以上。2021年にSPAC上場を果たし、Daimler Truck傘下のTorc Robotics、防衛大手Raytheon、精密機器のNikonなどと提携を広げている。自動運転だけでなく、産業用ロボティクス、インフラ監視、防衛分野まで——4Dライダーが開く応用領域は想像以上に広い。

従来のLiDARの限界——なぜ「3D」では足りないのか

ToF(Time-of-Flight)方式の仕組みと弱点

現在市場に出回っているLiDARの大半はToF(飛行時間)方式を採用している。レーザーパルスを発射し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間を計測することで距離を算出する。シンプルで信頼性の高い方式だが、以下の限界がある。

速度情報の欠如: ToF方式が1回のスキャンで得られるのは「各点までの距離」のみだ。対象物がどの方向にどれだけの速度で移動しているかを知るには、複数フレームの点群を比較して差分を計算する必要がある。この後処理には数十ミリ秒〜数百ミリ秒のレイテンシが生じ、高速で接近する車両や突然飛び出す歩行者への即時反応が難しくなる。

太陽光干渉: ToF方式は905nmまたは1550nmの波長のレーザーパルスを使用するが、直射日光の下ではセンサーが太陽光のノイズを拾い、検出距離が短縮される。特に夏季の昼間は性能低下が顕著になることがある。

相互干渉: 複数のToF LiDARが近接して動作すると、他車のレーザーパルスを自車のセンサーが誤検出する「相互干渉」が発生する可能性がある。自動運転車が一般道に増えるほど、この問題は深刻化する。

自動運転における速度情報の重要性

時速60kmで走行する車両が急ブレーキをかけた場合、停止距離は約36m(乾燥路面)だ。前方100m先に対向車が時速60kmで接近している場合、衝突までの時間はわずか3秒。この状況で、速度情報の取得に数百ミリ秒のレイテンシがあれば、ブレーキ判断が致命的に遅れる可能性がある。

4Dライダーは、この「速度測定のレイテンシ」をゼロにする技術だ。

Aevaとは——FMCW方式で4Dライダーを実用化

会社概要

Aevaは2017年、Apple出身のエンジニア Soroush SalehianMina Rezk によってカリフォルニア州マウンテンビューで設立された。2人はAppleの自動運転プロジェクト「Project Titan」のLiDAR開発チームに在籍していた経歴を持つ。

2021年にSPAC(InterPrivate II VSC Corp.)との合併によりNASDAQ上場を果たし、ティッカーシンボルは「AEVA」。2026年3月時点の時価総額は約**$1B(約1,500億円)** 前後で推移している。従業員数は約250名。

主要投資家・パートナー

パートナー関係内容
Torc Robotics(Daimler Truck)顧客長距離トラック自動運転にAeries IIを採用
Raytheon(RTX)提携防衛・セキュリティ分野での4Dライダー応用
Nikon製造提携精密光学技術を活用したLiDARモジュール製造
TÜV SÜD認証自動車安全規格(ISO 26262)の認証取得支援
Porsche SE投資ポルシェの持株会社が出資

FMCW 4Dライダーの技術的特徴

以下の図は、AevaのFMCW方式と従来のToF方式の原理的な違いを示している。

FMCW 4DライダーとToFライダーの原理比較図。左側のFMCW方式は連続変調レーザーで距離と速度を同時取得し4Dポイントクラウドを出力。右側のToF方式はパルスレーザーで距離のみ取得し3Dポイントクラウドを出力。FMCWは太陽光干渉に強く長距離300m以上を実現。

この図が示すとおり、FMCW方式とToF方式は根本的な測定原理が異なり、それが出力データの質に直結している。

FMCW方式の仕組み

FMCW(Frequency-Modulated Continuous Wave)は、もともとレーダー技術で広く使われていた測定原理だ。Aevaはこれを光の領域(LiDAR)に応用した。

  1. 連続変調レーザーの発射: パルスではなく、周波数が連続的に変化するレーザー光を照射する
  2. 反射光の受信: 対象物から反射して戻ってきた光を受信する
  3. ビート周波数の解析: 送信波と受信波の周波数差(ビート周波数)を解析する
  4. 距離の算出: ビート周波数の「位相差」成分から距離を計算
  5. 速度の算出: ビート周波数の「ドップラーシフト」成分から、対象物の視線方向速度を計算

つまり、1回のスキャンで距離と速度を同時に取得できる。これがFMCW方式の最大の利点だ。

Aeries II の主要スペック

Aevaの量産型4DライダーセンサーであるAeries IIの主要スペックは以下の通りだ。

項目スペック
測定方式FMCW(周波数変調連続波)
出力データ4Dポイントクラウド(X, Y, Z + 瞬時速度)
検出距離最大300m以上(10%反射率物体)
速度測定各点の瞬時速度(視線方向、cm/s精度)
視野角水平120° × 垂直30°
角度分解能0.05° × 0.05°(最高設定時)
フレームレート最大20Hz
波長1550nm(目に安全な長波長)
太陽光耐性直射日光下でも性能劣化なし
相互干渉耐性FMCW方式により原理的に干渉なし
サイズ手のひらサイズ(車両ルーフに統合可能)
動作温度-40°C 〜 +85°C

なぜFMCWは太陽光に強いのか

ToF方式のLiDARは「パルスの有無」で反射光を検出するため、太陽光のような広帯域ノイズに弱い。一方、FMCW方式は特定の周波数パターンを持つ光のみを選択的に検出する「コヒーレント検出」を採用しているため、太陽光やその他のノイズを原理的に除去できる。

これは、雑踏の中で特定の人の声だけを聞き取る能力に例えられる。ToF方式が「大声で叫んで反応を待つ」方式だとすれば、FMCW方式は「特定の周波数で静かに会話する」方式だ。

競合比較——世界のLiDAR市場勢力図

主要LiDAR企業の比較表

項目AevaOusterHesaiLuminarAeye
本社米国カリフォルニア米国カリフォルニア中国上海米国フロリダ米国カリフォルニア
方式FMCWToF(デジタル)ToF(機械式/固体式)ToF(ファイバーレーザー)ToF(適応型)
4D速度測定あり(ネイティブ)なしなしなし部分的
検出距離300m+最大240m最大300m最大500m最大300m
主要顧客Torc/Daimler、Raytheon自動運転各社中国OEM、Waymo他Volvo、Polestar非公開
量産状態量産開始量産中大量量産中量産中開発段階
株式公開NASDAQ(AEVA)NYSE(OUST)NASDAQ(HSAI)NASDAQ(LAZR)非公開
時価総額約$1B約$500M約$2B約$1.5B
価格帯$500〜$1,000(量産時)$200〜$800$200〜$500$500〜$1,000非公開

Aevaの独自ポジション

この比較から、Aevaの独自性は明確だ。

1. 唯一のFMCW量産企業

2026年3月時点で、FMCW方式のLiDARを量産レベルで提供できる企業はAevaのみである。他社もFMCWの研究開発は進めているが、量産に必要な半導体集積化とコスト削減に成功したのはAevaが最初だ。

2. 速度情報のネイティブ取得

ToF方式のLiDARでは、速度を知るために最低2フレーム(100ms〜200ms間隔)の点群比較が必要だが、Aevaの4Dライダーは各点の瞬時速度を1フレームで取得する。高速接近物体の検出レイテンシがゼロになることは、安全性の面で決定的な差別化要因だ。

3. チップレベルの垂直統合

Aevaは自社でFMCW LiDAR専用のシリコンフォトニクスチップを設計しており、外部チップベンダーに依存していない。これにより、コスト削減と性能最適化の両方を自社でコントロールできる。Nikonとの製造提携により、高精度光学系の品質管理も確保している。

Ouster(旧Velodyne統合)との違い

2023年にVelodyneと合併したOusterは、LiDAR業界最大手の一角だ。デジタルLiDAR技術により低コスト化を進め、自動運転・スマートインフラ・ロボティクスの各分野で広く採用されている。

ただし、OusterのToF方式では4D速度情報のネイティブ取得はできない。Ousterの強みは「価格の安さ」と「幅広い製品ラインナップ」にあり、Aevaの強みは「データの質の高さ」にある。用途によって使い分けが進むと予想される。

中国勢(Hesai、RoboSense)の台頭

中国のLiDAR企業は圧倒的な価格競争力を持つ。Hesaiの固体式LiDARは$200〜$500の価格帯で大量供給されており、BYD、Li Auto、NIOなどの中国EVメーカーに広く採用されている。

ただし、中国製LiDARは地政学リスクを抱えている。米国の輸出規制や安全保障上の懸念から、欧米の自動車メーカーが中国製センサーの採用を避ける動きがあり、Aevaのような米国企業にとっては追い風だ。

自動運転を超えて——4Dライダーの産業応用

以下の図は、Aevaの4Dライダー技術が応用される主要領域を示している。

Aeva 4Dライダーの応用領域マップ。中央にAeva Aeries IIを配置し、自動運転車、長距離トラック(Torc提携)、産業用ロボティクス、インフラ・セキュリティ(Raytheon提携)の4領域に展開。下部に主要パートナーと累計資金調達額を表示。

この図が示すとおり、4Dライダーの応用は自動運転だけにとどまらず、産業全体に広がっている。

長距離トラック自動運転(Torc Robotics提携)

Daimler Truck傘下のTorc Roboticsは、高速道路での長距離トラック自動運転を開発している。高速道路では車両速度が時速100km以上になるため、500m先の障害物を早期に検出し、かつ接近速度を即時に把握することが安全上必須だ。

Aevaの4Dライダーは、長距離での高精度測距と速度同時取得という要件にFMCW方式で応えている。2025年からTorc Roboticsの自動運転トラックにAeries IIが搭載され、テキサス州の公道でテスト走行が行われている。

産業用ロボティクス

工場や倉庫で稼働するAMR(自律移動ロボット)やAGV(無人搬送車)にとって、人間との安全な協働は最重要課題だ。従来のToF LiDARでは、静止している人と移動している人の区別がリアルタイムにできないことがあった。

4Dライダーであれば、各検出点の速度ベクトルが得られるため、「人が歩いている」「人が立ち止まっている」「物が倒れてきている」といった動的状態を即座に分類できる。これにより、ロボットの安全停止判断の精度と応答速度が飛躍的に向上する。

防衛・セキュリティ(Raytheon提携)

Aevaは防衛大手Raytheon(RTX)と提携し、4Dライダーの防衛分野への応用を進めている。具体的な用途は非公開だが、以下のような応用が想定される。

  • 基地周辺の侵入検知(静止物と移動物体のリアルタイム分類)
  • 無人車両(UGV)の自律走行
  • ドローン検知・追跡
  • 戦場での車両速度・方向のリアルタイム把握

FMCW方式は相互干渉に強いため、多数のセンサーが密集する軍事環境でも安定動作するという利点がある。

インフラ・スマートシティ

交差点や高速道路に4Dライダーを設置すれば、車両・歩行者・自転車の位置と速度をリアルタイムで把握できる。これにより、以下のような応用が可能になる。

  • 信号制御の最適化(接近車両の速度に基づく青信号延長)
  • 交通事故予測(衝突コースの車両ペアを早期検出)
  • 渋滞分析(車両速度の面的把握)
  • 違法駐車・逆走車の自動検出

日本のLiDAR技術開発——デンソー、パイオニア、ソニーの動向

デンソーのLiDAR戦略

トヨタグループのTier 1最大手であるデンソーは、自社でLiDARの開発・製造を手がけている。2023年にはSPAD(Single-Photon Avalanche Diode)技術を用いた高感度LiDARを発表しており、ADAS向けの量産供給を進めている。

デンソーのLiDARはToF方式であり、FMCW方式への展開は公式には発表していない。ただし、デンソーの半導体子会社であるNSITEXEは先端センサー技術の研究を続けており、将来的にFMCW技術を取り込む可能性は否定できない。

パイオニアの転身

カーオーディオの老舗パイオニアは、事業転換の柱としてLiDAR開発に注力している。子会社のパイオニアスマートセンシングイノベーションズ(PSSI)は、MEMS方式のLiDARを開発し、ADAS用途での量産供給を目指している。

PSSIのLiDARもToF方式だが、独自のMEMSミラー技術により小型化とコスト削減を実現している。国内自動車メーカーへの供給のほか、自動運転スタートアップのティアフォーとの協業も進めている。

ソニーのイメージセンサー技術

ソニーは世界最大のイメージセンサーメーカーであり、車載カメラ向けCMOSイメージセンサーで高いシェアを持つ。LiDAR分野では、SPAD-ToF技術を用いた測距センサーの開発を進めている。

ソニーの強みは半導体の微細加工技術とSPADの高感度設計にある。将来的にFMCW方式のLiDARがソニーのシリコンフォトニクス技術と融合する可能性も、業界関係者の間で議論されている。

日本市場におけるAevaの可能性

Aevaは日本市場への進出を明確に表明していないが、以下の理由から日本との接点が生まれる可能性は高い。

  1. Nikonとの製造提携: すでに日本の精密機器企業との協業実績がある
  2. トヨタ・日産のADAS高度化需要: レベル3対応の認識精度向上にFMCW LiDARが有効
  3. ロボティクス市場: 日本は産業用ロボットの世界最大の導入国であり、4Dライダーの需要がある
  4. 防衛分野: 日本の防衛省がセンサー技術の国産化・多元化を推進しており、米国製FMCW LiDARは選択肢の一つ

ただし、日本の自動車業界は新技術の採用に慎重なことで知られており、FMCW方式の実績がさらに積み上がるまで本格採用には時間がかかる可能性がある。デンソーやパイオニアなど国内勢との競争関係も複雑だ。

FMCW LiDARの課題と今後の展望

現時点での課題

FMCW方式にも課題は存在する。

コスト: 量産時の価格は$500〜$1,000と、中国製ToF LiDAR($200〜$500)の2倍程度。4Dデータの付加価値がこの価格差を正当化できるかは用途次第

点群密度: 現行のAeries IIのフレームレート(最大20Hz)はToF方式の高速モデル(30Hz以上)に劣る。ただし、速度情報が得られることで実質的な情報量は多い

エコシステム: ToF方式のLiDARに最適化された自動運転ソフトウェアスタック(ROS、Autowareなど)が主流であり、4Dデータを活用するソフトウェアツールチェーンはまだ発展途上

半導体製造の複雑さ: シリコンフォトニクスチップの製造は通常のCMOSプロセスより複雑であり、歩留まり(良品率)の改善が量産コスト削減の鍵

2030年に向けた予測

LiDAR業界全体の市場規模は2030年に約$8B〜$12B(約1.2兆〜1.8兆円) に達すると予測されている。その中でFMCW方式のシェアは以下のように推移すると見込まれる。

LiDAR市場全体FMCW方式シェア主な成長ドライバー
2024約$2B5%以下自動運転テスト車両向け
2026約$4B約10%Torc/Daimlerなど量産採用開始
2028約$6B約20%産業ロボティクス・インフラ監視の拡大
2030約$10B約30%L3/L4自動運転の商用化・コスト低下

FMCW方式はToF方式を「置き換える」のではなく、「高付加価値セグメント」を形成する。安全性が最重要視される長距離トラック、防衛、産業安全などの分野ではFMCW方式が優勢となり、コスト重視のADASや簡易ロボティクスではToF方式が引き続き主流になるという「棲み分け」が進むだろう。

まとめ——4Dライダーが変えるセンシングの未来

AevaのFMCW 4Dライダーは、「距離だけ測る」従来LiDARの限界を超え、「距離も速度も、1回のスキャンで、光の干渉なく測る」 という新しいパラダイムを切り開いた。Torc Roboticsとの長距離トラック自動運転、Raytheonとの防衛応用、そして産業ロボティクスへの展開は、4Dデータが単なる技術的優位ではなく実用的な価値を持つことを証明しつつある。

日本の自動車・ロボティクス産業にとっても、FMCW方式はデンソー・パイオニアなど国内勢との競争とパートナーシップの両面で今後の注目点だ。自動運転のレベル3/4に向けた安全認証において、4Dライダーの速度即時取得がどの程度の差別化要因になるか——規制当局とOEMの判断が、この技術の運命を左右することになるだろう。

アクションステップ

  1. 自動運転・ロボティクスエンジニア: AevaのFMCW 4Dライダー SDK とデータセットを公式サイトで確認し、4Dポイントクラウドの速度チャネルを活用した物体追跡アルゴリズムの検証を開始する
  2. 投資家: AEVA(NASDAQ)の四半期決算でTorc向け量産の進捗とバックログ(受注残)の推移を追い、FMCW LiDAR市場の成長タイミングを見極める
  3. 日本の製造業・物流業: 倉庫AMRや工場AGVの安全性向上に4Dライダーが有効かを評価し、国内代理店(Nikon経由の可能性)やティアフォー等の国内パートナー経由での技術検証を検討する

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