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Ayar Labs $500M調達——シリコンフォトニクスでNvidiaとAMDが異例の共同出資

$500M(約750億円)、評価額$3.8B(約5,700億円) ── シリコンフォトニクスのスタートアップ Ayar Labs が、GPU市場で熾烈な競争を繰り広げる NvidiaとAMD の異例の共同リードで巨額のSeries Eラウンドを完了した。通常であれば同じスタートアップに手を取り合って投資することなどあり得ない2社が揃って出資した事実が、この技術の戦略的重要性を如実に物語っている。

AIデータセンターの計算能力は毎年倍増ペースで膨れ上がっているが、チップとチップをつなぐ「配線」は依然として銅が主流だ。この配線がボトルネックとなり、GPUの性能をフルに引き出せない状況が生まれている。Ayar Labsの光インターコネクト技術は、まさにこの問題を根本から解決するポテンシャルを持つ。本記事では、同社の技術の仕組み、NvidiaとAMDの投資の狙い、競合他社との比較、そして日本のフォトニクス産業にとっての意味を徹底的に掘り下げる。

Ayar Labs とは何か

Ayar Labsは2015年にMIT、コロラド大学ボルダー校、カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちが共同で設立したファブレス半導体企業だ。本社はカリフォルニア州サンノゼに置かれている。社名の「Ayar」はインカ神話に登場する創世の兄弟に由来し、「光で世界をつなぐ」というビジョンが込められている。

同社の中核技術は シリコンフォトニクス(Silicon Photonics) だ。標準的なシリコンウェハー上に光の導波路やレーザー、光検出器を集積し、従来の銅配線の代わりに光でチップ間通信を行う。この技術は基礎研究の段階を経て、いよいよ大量生産・実装フェーズに入りつつある。

コアプロダクト

Ayar Labsは2つの主力プロダクトを開発・商用化している。

プロダクト役割主な特徴
TeraPHY光I/Oチップレット既存のプロセッサパッケージに直接統合可能。マルチTbpsの帯域幅を実現し、銅配線I/Oの置き換えを狙う
SuperNovaマルチ波長光源モジュール複数波長のレーザー光を安定供給。TeraPHYと連携して動作し、波長多重(WDM)通信を実現

TeraPHYはUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)規格に対応しており、異なるメーカーのチップレットと相互接続できる設計だ。これにより、NvidiaのGPUやAMDのCPU/GPUのパッケージにそのまま組み込める柔軟性を持つ。

資金調達の軌跡

ラウンド時期調達額主要投資家
Series A2017年$24MPlayground Global
Series B2019年$35MDowning Ventures
Series C2022年$130MBoardman Bay Capital
Series D2024年$155MNvidia, AMD
Series E2026年$500MNvidia, AMD(共同リード)

累計調達額は**$1B(約1,500億円)超**に達した。Series Dでも両社が参加していたが、Series Eで正式に共同リードを務めたことは、テスト段階から本格的な量産・統合段階への移行を意味している。

なぜ「光」なのか ── 銅配線の物理的限界

AIデータセンターが直面するボトルネック

2026年現在、大規模AIモデルの学習には数千〜数万個のGPUを同時に連携させる必要がある。例えばGPT-5クラスのモデル学習では、推定で10,000基以上のNvidia H200を数カ月にわたって稼働させる。この時、GPU間のデータ転送速度が学習効率を大きく左右する。

問題は、チップ同士をつなぐ銅の電気配線がこのデータ量に追いついていないことだ。

銅配線の3つの限界:

  1. 帯域幅の天井: 銅配線は1レーンあたり最大約112 Gbpsが実用上の限界。次世代のPAM4変調でも224 Gbpsが上限とされる。一方、大規模AIクラスターでは1ポートあたり数Tbpsの帯域幅が必要になりつつある
  2. 距離による信号劣化: 銅配線では約1〜2メートルを超えると信号の減衰が顕著になる。ラック間・ポッド間の通信には光トランシーバーへの変換が必要だが、この変換自体がレイテンシと電力のオーバーヘッドを生む
  3. 消費電力と発熱: 高速電気信号は大量の電力を消費する。データセンターの電力消費のうち約30〜40%がインターコネクト(配線とスイッチング)に費やされているという試算もある

光インターコネクトの優位性

シリコンフォトニクスは、シリコンウェハー上に微細な光導波路を形成し、電気信号を光信号に変換(E/O変換)してデータを送信し、受信側で光から電気に戻す(O/E変換)技術だ。

光を使うメリットは物理法則に裏打ちされている。

  • 帯域幅: 1ポートあたり4 Tbps以上の通信が可能。銅配線の約40倍。波長多重(WDM)を使えば、1本の光ファイバーで複数の独立した通信チャネルを同時に運用できる
  • 到達距離: 数十メートルから数キロメートルまで、信号劣化がほとんどない。ラック内からデータセンター間まで統一的な技術でカバーできる
  • 省エネ: 同等のデータ量を送る場合、消費電力は銅配線の約1/5。これはデータセンターの電力コストと冷却コストの大幅削減に直結する
  • レイテンシ: 光の伝搬速度は電気信号よりも速く、長距離通信でのレイテンシ低減に貢献する

以下の図は、銅配線と光インターコネクトの主要性能指標を比較したものだ。

銅配線と光インターコネクトの帯域幅・到達距離・消費電力・レイテンシの性能比較

この図が示すように、光インターコネクトは帯域幅で40倍以上、到達距離で1000倍以上、消費電力で約1/5と、すべての指標で銅配線を圧倒している。AI時代のデータセンターにとって、光への移行は「いつ」の問題であり「もし」の問題ではない。

NvidiaとAMDが共同出資した理由

Nvidia の狙い

NvidiaはGTC 2026でも繰り返し強調したように、次世代アーキテクチャ「Vera Rubin」以降のプラットフォームで光インターコネクトの統合を進めている。NVLinkの帯域幅は世代ごとに倍増してきたが、銅配線ベースのNVLink 6(1.8 TB/s)が物理的限界に近づいている。

Ayar LabsのTeraPHYチップレットをNVLinkの次世代版に統合することで、数万GPUを低レイテンシで接続する「Optical NVLink」の実現が視野に入る。これはNvidiaのデータセンター事業にとって、競合他社に対する決定的な差別化要因となりうる。

AMD の狙い

AMDもまた、MI400シリーズ以降のAIアクセラレーターでインターコネクトの高速化を最重要課題に位置づけている。AMDはInfinity Fabricというチップレット間通信技術を持つが、光インターコネクトへの移行はまだ実現していない。

Ayar Labsへの出資は、AMDにとって自社のInfinity Fabricを光ベースに進化させるための技術パイプラインの確保を意味する。また、Nvidiaが光インターコネクトで先行するリスクを回避する「防衛的投資」の側面もある。

両社共同出資の異例さ

半導体業界において、直接的な競合企業が同じスタートアップに共同で投資すること自体が極めて珍しい。これは、光インターコネクト技術が特定のプロセッサアーキテクチャに依存しない「水平的な基盤技術」であり、業界全体で共有すべきインフラ層だと両社が認識していることを示唆している。

UCIe規格への対応により、Ayar LabsのチップレットはNvidiaにもAMDにも等しく価値を提供できる。いわば半導体業界の「光の共通インフラ」として、両社ともに乗り遅れるわけにはいかないのだ。

競合他社との比較

シリコンフォトニクス市場にはAyar Labs以外にも複数のプレイヤーが存在する。

企業名アプローチ強み弱み調達額/規模
Ayar Labs光I/OチップレットUCIe対応、Nvidia/AMD提携、チップレット統合に特化ファブレスのため量産はパートナー依存$1B+
Broadcom光スイッチIC大量生産能力、既存顧客基盤(Google, Meta等)チップレット統合型ではなく、主にネットワーク向け時価総額$800B+
Intel内製フォトニクス自社Fabとの垂直統合、量産経験AIアクセラレーター市場での存在感が薄い時価総額$100B+
Ranovus量子ドットレーザー高集積・低コスト光源、独自のマルチ波長技術商用実績が限定的$100M+
Lightmatterフォトニックプロセッサ光でコンピューティング自体を行う次世代アプローチ実用化までの道のりが長い$420M+
Celestial AIフォトニックファブリックメモリとプロセッサ間の光接続に特化まだ初期段階$250M+

以下の図は、Ayar Labsを中心とした競合マップを示している。

Ayar Labsを中心としたシリコンフォトニクス競合マップ。提携企業(Nvidia、AMD)、競合(Broadcom、Intel、Ranovus、Lightmatter)、日本の注目プレイヤーの関係図

この競合マップが示すように、Ayar Labsの最大の優位性は「NvidiaとAMDの両方と直接提携している唯一の企業」という立ち位置だ。Broadcomは主にネットワークスイッチ向け、IntelはCPU統合型と、それぞれ異なるセグメントを狙っている。LightmatterやCelestial AIはより野心的だが実用化は先の話だ。

Ayar Labsは「今すぐ使える光I/Oチップレット」という現実的なポジションで、最大の顧客基盤を持つNvidiaとAMDの両方にアクセスできる。これは競合他社にはない明確な優位性だ。

市場規模と成長予測

シリコンフォトニクス市場は急拡大が見込まれている。

  • 2025年: 約$5.2B(Yole Group推計)
  • 2028年: 約$14.8B(CAGR 41%)
  • 2030年: 約$25B以上(AI需要が牽引)

特にデータセンター内の光インターコネクト(Co-packaged Optics、CPO)市場は、2025年の実質ゼロに近い状態から、2028年には$3B規模に成長すると予測されている。Ayar LabsのTeraPHYはまさにこのCPOカテゴリに属しており、市場の立ち上がりと同社の量産開始のタイミングが合致する。

AIデータセンター投資との連動

2026年のBig Tech各社のAIインフラ投資は合計$650B以上に達する見通しだ。この投資の大部分がデータセンターの建設・拡張に向けられており、その中でインターコネクト技術への需要も急増している。

具体的には以下のような需要ドライバーがある。

  • Nvidia DGX SuperPOD: 数千GPUの大規模クラスターで、光インターコネクトの恩恵が最大化
  • AMD Instinct MI400: 次世代AIアクセラレーターで光ベースのInfinity Fabricを検討中
  • ハイパースケーラーの自社チップ: Google TPU、Amazon Trainium、Microsoft Maiaなども光インターコネクトを検討

日本のフォトニクス産業にとっての好機

日本の強み

日本はシリコンフォトニクスの分野で世界的に見ても高い技術力を持っている。以下の企業・プロジェクトが特に注目される。

NTT IOWN構想: NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、光技術を通信ネットワーク全体に適用する壮大な構想だ。光電融合デバイスの開発で世界をリードしており、2030年の実用化を目指している。NTTの光トランジスタ技術はAyar Labsのアプローチとは異なるが、光インターコネクト市場の拡大はIOWNにとっても追い風だ。

富士通: 光トランシーバーモジュールの大手メーカーであり、データセンター向けの光通信コンポーネントで高いシェアを持つ。Ayar Labsのような光I/Oチップレットの普及は、富士通のコンポーネントビジネスの拡大につながる。

古河電工・住友電工: 光ファイバーと光デバイスの世界大手。AIデータセンターの光化が進めば、光ファイバーと関連部材の需要は大幅に増加する。特に高密度実装向けの光コネクタ技術で日本企業の競争力は高い。

浜松ホトニクス: フォトダイオードやレーザーなどの光半導体デバイスで世界トップクラスの技術力を持つ。シリコンフォトニクス向けの光検出器市場でも重要なプレイヤーだ。

サプライチェーンへの参画機会

Ayar Labsはファブレス企業であり、チップの製造はGlobalFoundriesなどのファウンドリに委託している。量産が本格化すれば、以下のサプライチェーン領域で日本企業のビジネス機会が生まれる。

領域日本の有力企業機会の内容
光ファイバー・コネクタ古河電工、住友電工、フジクラデータセンター内の光配線材料
レーザー光源部品浜松ホトニクス、三菱電機SuperNova向け半導体レーザー
検査・測定装置アンリツ、横河電機シリコンフォトニクスチップの検査
パッケージング材料住友ベークライト、日東電工チップレット実装向け基板・接着材
製造装置東京エレクトロン、キヤノン光導波路形成用リソグラフィ

政策面の支援

日本政府は2025年に策定した「次世代半導体戦略」の中で、光電融合技術を重点分野の一つに指定している。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を通じた研究開発補助金も拡充されており、光インターコネクト技術の国産化に向けた環境は整いつつある。

RapidusがTSMCに対抗する先端ロジック半導体の国産化を進める中、光インターコネクト技術を組み合わせることで、日本独自のAI半導体エコシステムを構築できる可能性がある。

技術的な課題と今後の展望

量産化の壁

シリコンフォトニクスの最大の課題は、CMOS互換プロセスでの大量生産における歩留まりの向上だ。光デバイスは電子デバイスに比べて製造プロセスの許容誤差が小さく、微細な欠陥が性能に大きく影響する。Ayar Labsは$500Mの資金の相当部分を量産ライン構築と歩留まり改善に投じるとされている。

コスト競争力

現時点では光インターコネクトのチップあたりのコストは銅配線を上回っている。しかし量産効果とプロセス改善により、2027〜2028年頃にはトータルコスト(電力費含む)で銅配線と同等以下になると予測されている。特にデータセンター規模で考えると、電力コストの削減効果が大きいため、TCO(総所有コスト)では既に光が優位になるケースが出始めている。

標準化の進展

UCIe 2.0規格の策定が2026年後半に予定されており、光インターフェースの標準仕様が初めて正式に定義される見通しだ。これはAyar Labsにとって大きな追い風となる。標準化により、異なるベンダーのチップレットとの相互運用性が保証され、導入障壁が大幅に下がるためだ。

まとめ

Ayar Labsの$500M調達は、AIデータセンターのインターコネクト技術が銅から光へと本格的に移行する転換点を示す象徴的なイベントだ。NvidiaとAMDという直接的な競合企業が揃って出資したことは、光インターコネクトが「あると便利」な技術から「なければ勝てない」基盤技術へと昇格したことを意味している。

今後に向けた具体的なアクションステップは以下の通りだ。

  1. 半導体・光通信関連の投資家: Ayar Labsの量産開始(2027年予定)に向けて、サプライチェーン上の日本企業(古河電工、浜松ホトニクス、アンリツなど)の光インターコネクト関連売上の成長を注視する。シリコンフォトニクスETF(SOXQ等)やNTT株も光技術テーマの有力候補だ
  2. エンジニア・技術者: UCIe 2.0規格の動向を追い、光インターフェースの設計スキルを身につけることが中長期的なキャリア形成に有利。NTTのIOWN関連のオープンソースプロジェクトへの参加も検討する価値がある
  3. データセンター運用者・クラウド事業者: 2027〜2028年の光インターコネクト実装に備え、光ファイバー配線のインフラ設計を先行検討する。特に新規データセンター建設時には、銅配線と光配線のハイブリッド構成を前提とした設計が推奨される

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