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シリコンフォトニクスでデータセンターの帯域幅限界を突破する

AIデータセンターが直面する最大のボトルネックは、もはやGPUの演算能力ではない。GPU間のデータ転送帯域幅だ。数万基のGPUを接続するAIクラスタでは、従来の銅配線ベースのインターコネクトが物理的な限界に達しつつある。この壁を打ち破るのがシリコンフォトニクス——半導体チップ上に光回路を集積し、電気信号の代わりに光でデータを転送する技術だ。

Broadcom、Intel、Marvell、Nvidia、そしてスタートアップのAyar Labsが、この光インターコネクト市場をめぐって激しい開発競争を繰り広げている。シリコンフォトニクスは何を変えるのか。本記事では技術の仕組み、主要プレイヤーの比較、そしてAIインフラへの影響を徹底解説する。

なぜ光インターコネクトが必要なのか

AIモデルの学習では、数千〜数万基のGPUがテンソル並列パイプライン並列で協調動作する。この際、GPU間で大量のデータ(勾配、アクティベーション)を高速にやり取りする必要がある。

現在の主要なGPU間インターコネクトは:

  • NVLink(Nvidia): GPU間直接接続、1.8TB/s(NVLink 5.0)
  • InfiniBand(Nvidia/Mellanox): ネットワーク接続、最大400Gb/s/ポート
  • RoCE(RDMA over Converged Ethernet): 汎用Ethernet上のRDMA

これらはすべて**銅配線(電気信号)**ベースだ。電気信号には以下の物理的限界がある:

制約電気インターコネクト光インターコネクト
到達距離数メートル (信号減衰)数十m〜数km
帯域密度限界に接近10倍以上のポテンシャル
消費電力距離に比例して増大距離にほぼ依存しない
EMI (電磁干渉)密集配線で問題影響なし
レイテンシ配線長に依存光速 (極めて低い)

特に問題なのは到達距離だ。NVLinkの銅ケーブルは最大数メートルしか届かないため、NVLink接続のGPUは物理的に近接して配置する必要がある。しかしAIクラスタの規模が数万GPU以上になると、すべてのGPUを近接配置することは熱密度と電力供給の制約から不可能になる。

光インターコネクトなら、数十メートル〜数キロメートル離れたGPU間でも帯域幅を維持できる。これにより、データセンターのフロアレイアウトの自由度が大幅に向上する。

以下の図は、電気インターコネクトから光インターコネクトへの進化を示しています。

データセンターインターコネクトの進化。電気配線の距離・帯域幅限界からシリコンフォトニクスによる光接続への移行

シリコンフォトニクスとは何か

シリコンフォトニクスは、CMOS半導体製造プロセスを使って光回路をシリコンチップ上に集積する技術だ。「フォトニクス(光学)」と「シリコン(半導体)」の融合である。

従来の光通信は、III-V族化合物半導体(InP、GaAs)を使った専用光デバイスで構成されていた。これらは高性能だが、製造コストが高く、CMOSプロセスとの統合が困難だった。

シリコンフォトニクスでは、シリコンの高い屈折率を利用して光を導波路(ウェーブガイド)に閉じ込め、チップ上で光を操作する。主要コンポーネントは:

  1. レーザー光源: 連続波レーザーで光を生成(外部レーザーまたはチップ統合)
  2. 変調器: 電気信号を光信号に変換(Mach-Zehnder変調器やリング共振器)
  3. 導波路: シリコン上で光を伝搬(損失:約1dB/cm)
  4. 受光器: 光信号を電気信号に復元(ゲルマニウムフォトダイオード)

主要プレイヤー比較

以下の図は、シリコンフォトニクス市場の主要プレイヤーと製品を比較しています。

シリコンフォトニクス主要プレイヤー比較。Broadcom、Intel、Marvell、Nvidia、Ayar Labsの製品・帯域幅・ステータス

Broadcom — CPO(Co-Packaged Optics)のリーダー

BroadcomはCPO(Co-Packaged Optics)のアプローチで市場をリードしている。CPOとは、ネットワークスイッチASICと光トランシーバーを同一パッケージ内に統合する技術だ。

同社の最新製品Bailly CPOは、51.2Tb/sのスイッチ帯域幅を光インターフェースで実現する。従来のプラガブル光トランシーバー(スイッチとは別の筐体に配置)と比較して:

  • 消費電力: 約30%削減
  • 実装面積: 約50%縮小
  • 信号品質: 電気配線が短くなりSNR改善

Intel — OCI(Optical Compute Interconnect)

IntelはOCI(Optical Compute Interconnect)チップレットを開発中だ。これはCPUやGPUのパッケージ上に光I/Oチップレットを直接搭載し、チップ間通信を光で行うという野心的なアプローチだ。

OCIチップレットの仕様:

  • 帯域幅: 4Tb/s/チップレット
  • 消費電力: 5pJ/bit以下
  • 統合レーザー: 外部レーザー不要

Intelはこの技術を自社のXeonプロセッサやPonte VecchioGPU後継に統合することを計画している。複数のCPU/GPUを光接続でラック間結合すれば、**「ラック全体が1台のコンピュータ」**のように動作するディスアグリゲーテッドアーキテクチャが実現する。

Marvell — 光トランシーバーDSP

MarvellはネットワークDSP(Digital Signal Processor)の大手で、400G/800G光トランシーバー向けDSPチップで高いシェアを持つ。最新のNova 2 DSPは、800G PAM-4伝送をサポートし、データセンタースイッチとサーバー間の光接続を実現する。

Nvidia — NVLink光化

NvidiaはNVLinkの光化を進めている。現行のNVLink 5.0は銅配線ベースだが、次世代では光NVLinkが導入される見通しだ。GPU間を光ファイバーで接続することで、NVLinkドメイン(NVLink接続されたGPU群)を物理的に分散配置できるようになる。

Ayar Labs — スタートアップの挑戦

Ayar Labsは光I/Oに特化したスタートアップで、TeraPHYチップレットを開発している。IntelやNvidiaとの提携が報じられており、2Tb/s/チップレットの光I/Oを実現する。特にCXL(Compute Express Link)プロトコル上での光接続に注力しており、メモリプーリング(複数サーバーのメモリを光接続で共有)のユースケースを狙う。

技術的課題

シリコンフォトニクスの実用化にはいくつかの課題が残されている:

1. レーザー光源の統合

シリコン自体は間接遷移型半導体であるため、効率的にレーザー光を発生できない。現時点では外部のIII-V族レーザーを使用するか、ウェハ上にIII-V族材料をボンディングする方法が主流だ。完全なモノリシック統合(1枚のシリコンウェハ上ですべてを作る)はまだ実現していない。

2. コスト

シリコンフォトニクスチップのコストは、CMOS製造と光学コンポーネントの両方のコストが加算されるため、従来の電気インターコネクトより高い。大量生産によるコスト低下が実用化の鍵となる。

3. パッケージングの複雑さ

光ファイバーとチップの接続(ファイバーカップリング)は精度要求が厳しく、自動化が困難。位置合わせの精度は**サブミクロン(0.1μm以下)**が要求される。

市場規模と成長予測

シリコンフォトニクス市場は急速に成長している:

市場規模主要ドライバー
2023$12億データセンター光トランシーバー
2024$18億800G対応製品の普及
2025$28億CPO導入開始
2026$42億 (予測)AI GPU向け光接続
2028$80億 (予測)チップ間光I/O本格化

AI GPU需要がシリコンフォトニクスの最大の成長ドライバーだ。Nvidia、AMD、Googleの次世代AIアクセラレータが光インターコネクトを採用すれば、市場は爆発的に拡大する。

日本への影響

日本企業の技術的強み

シリコンフォトニクスの分野で日本企業は重要な位置を占めている:

  • 住友電気工業: 光ファイバー・光コネクタの世界大手。データセンター向け短距離光ファイバーの需要増で恩恵
  • 古河電気工業: 光増幅器・レーザーモジュール。III-V族レーザー技術で強み
  • 浜松ホトニクス: フォトダイオード・光センサーの世界的リーダー。シリコンフォトニクスの受光器素子で技術優位
  • 日本電気(NEC): 光トランシーバーモジュール。データセンター向け400G/800G製品を供給
  • 富士通オプティカルコンポーネンツ: 光変調器で高いシェア

データセンター建設ラッシュと光接続

日本でもハイパースケーラー(AWSGoogle Cloud、Microsoft Azure)のデータセンター建設が加速している。2026年時点で:

  • AWS: 東京・大阪リージョンの拡張に加え、新たなリージョン候補を検討中
  • Google Cloud: 印西に大規模データセンターを建設中
  • Microsoft: データセンター投資を日本で$29億(約4,350億円)規模に拡大

これらの大規模データセンターでは、AI GPU クラスタの内部接続にシリコンフォトニクスベースの光インターコネクトが段階的に導入される。日本の光部品メーカーにとっては、国内で増設される大規模データセンターへの納入機会が拡大する。

研究開発の最前線

日本の研究機関もシリコンフォトニクスの研究で先端を走っている:

  • NTT: IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想で、光ベースのコンピューティング基盤を2030年に実現することを目指す
  • 産総研: シリコンフォトニクスの試作ラインを持ち、国内スタートアップの開発支援を実施
  • 東京大学: 光コンピューティングの基礎研究でトップクラス

特にNTTのIOWN構想は、通信ネットワークからデータセンター内部までエンドツーエンドで光を活用する壮大なビジョンで、シリコンフォトニクスの応用先として注目されている。

まとめ——光がAIの次のボトルネックを解消する

シリコンフォトニクスは、AIデータセンターの帯域幅ボトルネックを解消する鍵となる技術だ。Broadcom、Intel、Marvell、Nvidia、Ayar Labsが競い合う中、2026〜2028年にかけて光インターコネクトの本格導入が始まる。

今後のアクションステップ:

  1. データセンターアーキテクト: 次期GPU クラスタ設計で光インターコネクトの採用を検討。BroadcomのCPOスイッチの評価を開始し、現行の電気スイッチとのTCO比較を実施
  2. 半導体・光学業界の投資家: Ayar Labs(未上場)のIPO動向と、Broadcomの光関連売上構成比の推移をウォッチ。シリコンフォトニクス市場の成長率は年40%超
  3. ネットワークエンジニア: 800G/1.6T Ethernet への移行計画で、シリコンフォトニクスベースのトランシーバーを選定候補に入れる。従来のプラガブル光モジュールとCPOの比較評価を開始

銅の限界は、光で超えられる。シリコンフォトニクスはAI時代のインフラを根本から変える技術だ。

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