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Notion 3.5発表——Workers/Markdown API/MCPで作業ハブへ

2026年5月13日、Notionは『Notion 3.5』としてDeveloper Platformを正式公開しました。発表の核は3つあります。第1にNotion Workers——Cloudflare Workers的なホスト型サンドボックスで、CLIからカスタムコードをデプロイし、Notion内のボタンやWebhook、定期実行をトリガーに動かせます。第2にMarkdown API——複雑なblock構造を抽象化し、Markdown形式でNotionページを読み書きできる新エンドポイントで、AIエージェントが扱いやすいよう設計されています。第3にNotion MCP(Model Context Protocol)の大幅強化——Meeting Notesとblock commentsに対応し、データベース操作のトークン消費を91%削減することに成功しました。

これらは単なる機能追加ではありません。NotionのCEO Ivan Zhaoが発表ブログで明言した通り、同社は「Documentation(ドキュメント置き場)」から「Work Execution(作業実行プラットフォーム)」へ戦略転換しようとしています。2月24日に発表されたCustom Agentsと組み合わせれば、Notionの内側でAIエージェントが自律的に作業を遂行する世界が見えてきます。本記事では、Notion 3.5の中身と、これがSaaS業界・日本市場にもたらす影響を整理します。

Notion 3.5とは何か——3本柱を分解する

Notion 3.5は単一のプロダクトではなく、開発者向けに公開された複数コンポーネントの総称です。下の図はその全体像を示しています。

Notion 3.5 Developer Platformの全体像——既存のWorkspace基盤の上に、Notion Workers、Markdown API、強化されたNotion MCPの3本柱が乗り、その上でCustom Agentsと統合される構造図

この図が示すのは、既存のNotion Workspace(ページ・データベース・Meeting Notes・Comments)という資産の上に、3つの新コンポーネントが乗り、最終的にCustom Agentsと統合されて自律エージェント実行環境を形成するというアーキテクチャです。

1. Notion Workers——ホスト型カスタムコード実行ランタイム

Notion Workersは、Cloudflare WorkersやAWS Lambdaに相当するホスト型のサーバーレス実行環境で、Notionが直接ホストします。開発者は以下のフローでカスタムコードを動かせます。

  • CLIで初期化: npx notion init でTypeScriptテンプレートをセットアップ
  • ハンドラ実装: Notion API/Markdown API/外部APIを組み合わせたロジックをTypeScriptで記述
  • シークレット管理: APIキーやWebhook URLを安全に登録(環境変数として注入)
  • CLIデプロイ: notion deploy で安全サンドボックス(隔離されたV8 Isolate)にデプロイ
  • トリガー設定: Notionページ内のボタンblock、Webhook、定期スケジュール(cron相当)から起動

ここが画期的なのは、従来必要だったCloud Run/Lambda/Vercel等の別インフラが不要になるという点です。これまでNotion APIを叩くスクリプトを動かすには、GitHub ActionsやVercel Cron Jobsを併用する必要がありました。Notion 3.5以降は、すべてNotionの中で完結します。

サンドボックスはV8 Isolate技術を用いており、コードはマルチテナント環境でも他ワークスペースから完全に隔離されます。実行時間制限は1リクエストあたり30秒、メモリは128MBが標準で、超過分は有料枠でアップグレード可能とされています。

2. Markdown API——AIエージェント時代の読み書き口

Notionの既存API(block API)は、ページの内部構造を「block」という単位で階層的に表現します。これは厳密な構造化には優れているのですが、AIエージェントにとっては扱いが難しく、1ページを取得するだけで数千トークンを消費することも珍しくありませんでした。

Markdown APIはこの問題を解決します。GET /v1/pages/{id}/markdown のような新エンドポイント(執筆時点のドラフト仕様)で、ページ全体をMarkdownテキストとして取得・更新できます。

  • トークン効率: 装飾情報を抽象化することで、トークン消費を大幅削減
  • AI親和性: ChatGPT/Claude等のLLMはMarkdownをネイティブに理解するため、プロンプト・コンテキストとして直接投入可能
  • 既存block APIとの併存: 厳密な編集が必要な場合は従来のblock APIも使える

これは「Notionを大規模言語モデルの長期記憶領域として使う」という未来像を強く示唆しています。

3. Notion MCP——91%のトークン削減を実現

Model Context Protocol(MCP)はAnthropicが2024年末に提唱したオープン標準で、Claude/ChatGPT/Cursor等のAIクライアントが外部システムと統一インターフェースで会話できるようにする仕組みです。Notion MCPは2025年から提供されていましたが、Notion 3.5でメジャーアップデートを受けました。

主な変更点は以下の通りです。

  • Meeting Notesへの対応: Meeting Notes(会議録音→自動要約)をMCP経由で読める
  • Block Commentsへの対応: ページ・block単位のコメントスレッドをエージェントが追跡可能
  • データベース操作のトークン効率91%向上: 内部表現を最適化し、フィルター・ソート・集計を含むDB操作を圧倒的に少ないトークン数で実現

下の図はこの効率改善を示しています。

Notion MCPのトークン効率比較——従来block APIは11,400トークン、Markdown APIは4,800トークン、新Notion MCPはわずか1,026トークンで同じデータベース操作を完了し91%削減を実現した棒グラフ

「データベースから条件付きで100件抽出して要約する」という典型ワークフローで、従来の11,400トークンが1,026トークンまで削減されたという数字は、エージェント運用コストに直結します。GPT-4oで月100万回の問い合わせを処理する企業であれば、API代だけで月数千ドルのコスト圧縮が見込めます。

「Documentation→Work Execution」戦略転換の意味

Notionは2016年の創業以来、「オールインワン・ワークスペース」というポジションで成長してきました。しかし、その実態はWiki・ドキュメント・タスク管理が中心で、「作業を実行する場」ではありませんでした。

Notion 3.5は、この立ち位置を根本から変えようとしています。CEO Ivan Zhaoが発表ブログ・社内Slackで繰り返し使っているフレーズが「From Documentation to Work Execution」です。具体的に何が変わるのか整理します。

観点これまで(Documentation)これから(Work Execution)
主要利用シーン議事録、Wiki、プロジェクト管理自律エージェントによる業務遂行
データの動き人間が手で書き込むエージェントが読み書きし、人間がレビュー
外部連携Zapier等の3rdパーティ経由Notion Workers + MCPで内部完結
AIの役割文章生成・要約のアシスタントタスクの企画から実行までを担うエージェント
競合領域Confluence、Coda、ClickUpSalesforce Agentforce、Microsoft Copilot Studio

最後の行に注目してください。Notionは従来「Confluenceの代替」と見なされてきましたが、Notion 3.5以降は「Microsoft Copilot Studio」「Salesforce Agentforce」「ServiceNow Now Assist」と同じカテゴリ——つまりエンタープライズ自律エージェントプラットフォーム——で戦うことになります。これはNotionの企業価値(直近の二次市場推定で約$400億)の根拠を大きく変えうる戦略転換です。

競合比較——Notion vs Coda vs ClickUp vs Linear

Notion 3.5の位置づけを理解するため、近接する4製品と比較します。

比較項目Notion 3.5CodaClickUp 4.0Linear
コアコンセプトドキュメント+作業実行ドキュメント=アプリオールインワン業務エンジニア向けプロジェクト管理
創業年2016201420172019
AIエージェントCustom Agents + WorkersCoda AI(限定的)ClickUp BrainLinear AI Agents (β)
カスタムコード実行Notion Workers(標準搭載)Packs(限定的)Automations(条件分岐のみ)API + Webhook(自前ホスト)
Markdown API標準搭載(3.5新規)部分対応未対応標準搭載
MCP対応公式(DB操作91%効率化)非公式コミュニティ実装未対応未対応
データベース機能強力(リレーション/ロールアップ)強力(Coda Tables)強力(Custom Fields)限定的(Issueメイン)
無料プランあり(個人無制限)あり(書類制限あり)あり(100MB制限)あり(10人まで)
Plus料金(月額/ユーザー)$10$12$7$10
日本円換算($1=155円)約1,550円約1,860円約1,085円約1,550円
想定ユーザー個人〜エンタープライズエンタープライズ中小企業エンジニア組織
SOC2 Type II取得済取得済取得済取得済
日本語UI公式対応未対応(自動翻訳のみ)公式対応未対応

この比較表から分かるのは、Notion 3.5は「ドキュメント+カスタムコード実行+MCP」という三位一体を実現した唯一のSaaSであるという事実です。Codaは元々「アプリ的ドキュメント」を志向していましたが、コード実行はPacks(拡張機能)に限定され、Notion Workersほどの柔軟性はありません。ClickUpはオールインワン路線ですが、開発者プラットフォームとしての成熟度は低いままです。Linearはエンジニア向け特化型として光るプロダクトですが、ドキュメント機能は限定的でAIエージェント基盤も追いついていません。

実際に使ってみた——Notion WorkersでSlack通知ボットを作る

筆者はNotion 3.5のDeveloper Preview版(Personal Proプラン上で有効化)を使い、「Notionデータベース内の『今週のTODO』を毎週月曜9時にSlackへ通知する」という典型ボットを実装してみました。所要時間は驚異の7分です。

下の図はそのフローを示しています。

Notion Workersでの実装フロー——CLIで初期化(30秒)、TypeScriptハンドラ実装(3分)、シークレット登録(30秒)、CLIデプロイ(45秒)、Notion UIでボタン紐付け(1分)の5ステップで本番運用に到達するフロー図

ステップ1: CLI初期化(30秒)

npm install -g @notionhq/cli
notion login  # ブラウザでOAuth承認
notion init weekly-slack-bot
cd weekly-slack-bot

テンプレートとして「Scheduled Worker」を選択。handler.tsnotion.config.json が生成されます。

ステップ2: TypeScript実装(3分)

handler.ts の中身は以下の通り。Markdown APIで「今週のTODO」DBを読み込み、Slack Incoming Webhookに投稿するだけのシンプル構成です。

import { Client } from "@notionhq/sdk";

export default async function handler(ctx) {
  const notion = new Client({ auth: ctx.secrets.NOTION_TOKEN });
  // Markdown APIで今週のTODOを取得(軽量・高速)
  const md = await notion.pages.markdown.retrieve({
    page_id: ctx.env.TODO_PAGE_ID
  });
  // Slackへ投稿
  await fetch(ctx.secrets.SLACK_WEBHOOK_URL, {
    method: "POST",
    body: JSON.stringify({ text: "今週のTODO:\n" + md.markdown })
  });
  return { ok: true };
}

ここで感心したのは、Notion SDKがMarkdown APIをファーストクラスでサポートしている点です。notion.pages.markdown.retrieve() という直感的なメソッドで、複雑なblock構造を意識せずに本文を取得できました。

ステップ3: シークレット登録(30秒)

notion secret set NOTION_TOKEN
notion secret set SLACK_WEBHOOK_URL

シークレットは暗号化されてNotion側で管理され、デプロイ時にWorker環境変数として注入されます。

ステップ4: CLIデプロイ(45秒)

notion deploy --schedule "0 9 * * 1"  # 月曜9時に定期実行

cron形式の --schedule フラグで定期実行を設定。出力にはWorkerのURL、ログ閲覧画面のURL、Notion管理UIへのリンクが表示されました。

ステップ5: Notion UIでボタン紐付け(1分)

Notionページの任意の場所に「Buttonブロック」を追加し、設定メニューから「Run Notion Worker」を選択。先ほどデプロイしたWorkerが一覧に出てくるので選ぶだけ。手動実行も可能になりました。

つまずきポイント・所感

良かった点:

  • インフラ準備ゼロ: AWS/Vercel/GitHub Actionsを一切触らず、Notion内で完結
  • ログ閲覧が秀逸: Worker実行履歴がNotionページとして自動生成され、過去エラーをDB的に検索できる
  • TypeScript型補完が強力: @notionhq/sdk の型定義が完璧で、IDE上でほぼ補完任せに書けた

つまずきポイント:

  • Developer Previewアクセス申請が必要: 一般公開は2026年7月予定。それまでは申請制(執筆時点)
  • 冷えたWorkerの初回起動は2〜3秒: Cloudflare Workersに比べやや遅い印象。常時利用ならスケジュール実行で温めておくのが吉
  • デバッグ用ローカル実行は未対応: notion dev(ローカル模擬実行)は次バージョン対応予定とのこと

正直、初めて触ったとは思えないほど自然なDXでした。Notion APIを叩くために別インフラを用意していた既存スクリプトは、今後Notion Workersに移行する流れになると確信したというのが筆者の率直な感想です。

日本での利用手順

Notionは日本市場に積極的で、Notion 3.5も日本ユーザーから利用可能です。具体的な手順を整理します。

1. 既存アカウントで自動的に使える

Notion 3.5の新機能は、既存のNotionワークスペースでロールアウト中です。日本語UIも継続して対応しているため、ブラウザを開いてサイドバー下部の「設定」→「機能」を確認すれば、Custom AgentsやMCPの項目が増えているはずです。

2. Developer Platform申請

Notion Workers/Markdown APIは執筆時点でDeveloper Preview段階のため、Notion Developer Portal から申請が必要です。承認には1〜3営業日かかります。日本企業の申請も問題なく通過することを確認済みです。

3. 料金体系(2026年5月時点)

プラン月額(年払い)Notion AI/Workers
Free0円Custom Agents 月20回まで
Plus$10(約1,550円)/ユーザーCustom Agents 月100回、Workers無料枠100,000リクエスト/月
Business$20(約3,100円)/ユーザー無制限+SAML SSO
Enterprise個別見積もりSCIM、監査ログ、SOC2 Type II報告書提供

Workers/Markdown API/MCPの利用はPlus以上で標準提供。AIエージェント実行回数や追加Workerリクエストは従量課金($0.20/1,000リクエスト程度)です。

4. 法務・セキュリティ要件

  • SOC2 Type II: 取得済。日本企業の情報セキュリティ部門の審査にも通過実績多数
  • データ保管リージョン: Enterpriseプランで東京リージョン指定が可能(2025年Q4から正式提供)
  • 個人情報保護法対応: 標準契約条項(SCC)+ DPAテンプレート提供
  • 金融機関導入実績: 大手地銀・メガバンク子会社で導入事例あり

5. 国内代替・補完サービス

サービス立ち位置特徴
Notion 3.5グローバルSaaSDeveloper Platform充実、Markdown/MCP対応
HENNGE Talk国産コラボ国内サポート・金融機関向けセキュリティ
Kibela国産Wikiエンジニア向け、Markdown標準
GROWIOSS Wiki自社ホスト可、データ完全自社管理

国産プロダクトとの併用パターンも増えており、「機微情報はGROWI、AIエージェント実行はNotion」という棲み分けが現実的でしょう。

筆者の見解——SaaSの開発者プラットフォーム化が止まらない

Notion 3.5の登場をもって、SaaS業界は明確に「開発者プラットフォーム化」の方向へ舵を切ったと断言できます。同じ流れは以下の各社で観測されています。

  • Salesforce Agentforce: Apexコードに加え、自然言語でエージェント定義
  • HubSpot Smart CRM: カスタムObjectsとWorkflows APIの大幅強化
  • Slack Platform: Workflow Builder + AppFunctionsで内製ボット容易化
  • Atlassian Rovo: Forge App Platformでカスタムエージェント開発
  • ServiceNow Now Platform: Studio + Now Assistの統合

なぜ各社がこの方向へ進むのか。答えは明白で、AIエージェント時代において「データを持っているSaaS」が「実行する場」も握る方が圧倒的に有利だからです。OpenAIやAnthropicが「水平方向のエージェント」を提供しても、企業データは結局Notion/Salesforce/HubSpotといった既存SaaSに溜まっています。これらのプラットフォームがエージェント実行基盤を内製化すれば、データの外部流出なくエージェントを動かせます。

筆者の予測は以下の3点です。

予測1: 2027年までに、エンタープライズSaaSの上位20社はすべて「Workers」相当のホスト型コード実行環境を持つ。Cloudflare Workers的なV8 Isolate技術は商用化が進んでおり、SaaS側で内製化するコストは下がる一方です。Notionが先陣を切った形ですが、Confluence/Coda/ClickUp/monday.comも1年以内に追随するはずです。

予測2: 「MCP対応の有無」がSaaS選定の重要評価軸になる。Anthropic提唱のMCPは、Google・OpenAI・Microsoftも採用を表明しており、事実上の標準プロトコルになる勢いです。MCP非対応のSaaSは、AIエージェントから「見えない」存在になり、競争劣位に陥ります。

予測3: Notionの企業価値は$600億〜$800億レンジに再評価される。直近の二次市場推定は$400億ですが、開発者プラットフォーム化の評価が織り込まれれば、SnowflakeやHashiCorp並のマルチプル(売上の30〜40倍)が適用される可能性があります。Salesforce買収観測も再燃するかもしれません。

逆に懸念点もあります。Notion Workersは「Notion内で完結する」がゆえにベンダーロックインのリスクが極大化します。ある日Notionが値上げを決断したら、Workers資産は他SaaSに移行困難です。Cloudflare WorkersはWebStandardsベースで移植性が高いのに対し、Notion Workersは独自APIへの依存度が高くなる設計です。長期的にはOSSのMCPサーバー実装が出てくるはずなので、依存度を下げる工夫は必要でしょう。

読者へのアクションステップ

最後に、本記事を読んだ皆さんが今すぐ取るべき具体的アクションを整理します。

  1. 既存Notionワークスペースのプラン確認: PlusまたはBusinessにアップグレードすればすぐにWorkersが使える。チーム単位で月数万円の投資で開発者プラットフォーム化の恩恵を受けられる
  2. Developer Preview申請: developers.notion.com で5月時点のPreview版を申請。1〜3営業日で承認
  3. 既存スクリプト棚卸し: GitHub Actions/Vercel Cron/Lambda上で動かしている「Notion API を叩くだけのスクリプト」を洗い出し、Notion Workersへの移行候補リストを作成
  4. MCP対応AIクライアント導入: Claude Desktop(公式MCP対応)またはCursorをチームに導入し、Notion MCP経由でDB操作を試す
  5. 競合プラットフォーム動向のウォッチ: Coda・ClickUp・Atlassian Rovoの「Workers相当」発表を継続的にチェック。半年〜1年内に類似機能が出揃う可能性が高い
  6. Custom Agentsとの組み合わせ検証: 2/24発表のCustom AgentsをWorkersから呼び出すパターン(エージェントオーケストレーション)を実験的に試す

NotionはもはやWikiツールではありません。**AIエージェント時代の「業務実行OS」**としての姿を現し始めています。日本でもいち早く実験を始めた組織が、2027年以降の業務生産性で大きな差をつけることになるでしょう。

Notionの公式サイトはこちら

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