NI Connect 2026——AIドリブンのテスト自動化が製造業の生産性を変える
テスト計測の世界的リーダーであるNational Instruments(NI)が、2026年5月に開催する年次カンファレンス「NI Connect 2026」の中心テーマとして、AIドリブンのテスト自動化と生産性向上を掲げた。世界のテスト計測機器市場は2026年に**約380億ドル(約5.7兆円)**規模に達すると予測されており、その中でAI技術の導入が従来のテストワークフローを根本から変革しつつある。
NIのCEO Eric Starkloff氏は「テストエンジニアリングはもはや品質保証の付属品ではない。AIによって、テストはプロダクト開発のイノベーションドライバーそのものになる」と宣言している。半導体の微細化加速、EVの電装系複雑化、5G/6G通信の高周波化——これらすべてのトレンドが、テスト自動化への投資を不可避にしている。
NI Connect 2026の概要
NI Connect 2026は、テスト計測・自動化分野のエンジニア、マネージャー、研究者を対象にした年次イベントだ。2026年のカンファレンスでは、以下の4つのキートラックが設定されている。
1. AI-Driven Test(AI駆動テスト): 機械学習モデルをテストシーケンスに統合し、テストカバレッジの最適化、異常検知、テスト時間の短縮を実現するセッション群。NI独自のAIツールキット「TestStand AI Advisor」の初公開が予定されている。
2. Semiconductor Test(半導体テスト): 3nm以降のプロセスノードで求められるテスト精度と速度の両立。NI STS(Semiconductor Test System)の最新機能として、AIベースのテストパターン生成と適応型テストフローの紹介。
3. Automotive & EV Test(自動車・EVテスト): バッテリーマネジメントシステム(BMS)テスト、ADAS(先進運転支援システム)のHIL(Hardware-in-the-Loop)シミュレーション、車載ネットワーク(CAN FD/Ethernet)の検証自動化。
4. Wireless & 5G/6G Test(通信テスト): FR3帯域(7-24GHz)を含む次世代通信規格のテストソリューション。O-RANの適合性テスト自動化。
テスト自動化にAIが必要な理由
従来のテスト自動化は、エンジニアが手動でテストケースを設計し、テストシーケンスをプログラミングする「ルールベース」のアプローチだった。しかし、現代の半導体チップやEVシステムは、テストすべきパラメータの組み合わせが指数関数的に増加しており、人手によるテスト設計はもはや限界に達している。
具体的な数値で見てみよう。最先端の5nmプロセスで製造されるSoCは、テストすべき信号ピンが数千本に達し、テストパターン数は数億パターンに上る。このすべてを網羅的にテストすれば、1チップあたりのテスト時間は数十分に及び、テストコストは製造コスト全体の**30-40%**を占めることになる。
AIが解決するのは、まさにこの「テスト爆発問題」だ。
テストパターン最適化: 機械学習モデルが過去のテストデータを分析し、故障検出に最も有効なテストパターンのサブセットを自動選択する。NIの発表によれば、AIベースのテスト最適化により、テストカバレッジを維持しながらテスト時間を最大40%短縮できるという。
適応型テスト: テスト中にリアルタイムで取得されるデータに基づき、テストフローを動的に変更する。良品と判定される確率が高いデバイスには簡易テストを適用し、疑わしいデバイスには追加テストを実施する。これにより、全体のスループットを大幅に向上させる。
異常検知・予兆保全: テスト装置自体のセンサーデータをAIが監視し、装置の故障予兆を検知する。ダウンタイムを最小化し、テストラインの稼働率を向上させる。
テストコード自動生成: 自然言語やスペックシートからテストプログラムを自動生成する機能。NI LabVIEWの新バージョンに統合予定の「AI Code Assistant」がこの役割を担う。
以下の図は、テスト自動化においてAIが活用される主要な領域とその効果を示しています。
この図が示すように、AIの導入はテスト設計から実行、分析、保全まで、テストライフサイクル全体にわたって生産性を向上させる。
LabVIEWの進化——AIとの融合
NI Connect 2026の目玉のひとつが、LabVIEW 2026の正式発表だ。LabVIEWは1986年のリリース以来、テスト・計測分野のデファクト開発環境として40年にわたり使われてきたグラフィカルプログラミング言語である。
LabVIEW 2026の主な新機能は以下の通りだ。
AI Code Assistant: テスト仕様書やデータシートの記述から、LabVIEWのブロックダイアグラム(視覚的なプログラム)を自動生成する。テストエンジニアは自然言語で「このICのI2C通信をテストして、レスポンスタイムが10ms以下であることを確認」と記述するだけで、対応するテストVIが自動生成される。
Python統合の強化: PythonベースのMLモデル(scikit-learn、TensorFlow、PyTorch)をLabVIEWのテストシーケンスから直接呼び出せるようになった。従来のDLL/共有ライブラリ経由のブリッジが不要になり、データのシリアライゼーションオーバーヘッドも大幅に削減された。
クラウドネイティブTestStand: テスト管理フレームワーク「TestStand」がクラウドネイティブアーキテクチャに対応。テスト結果のリアルタイム集約、テストシーケンスのバージョン管理、AIモデルのOTA(Over-the-Air)更新がクラウド経由で実行可能になった。
FPGA AI Accelerator: NI PXIプラットフォームのFPGAモジュールにAI推論エンジンを統合。テスト中のリアルタイム信号処理にニューラルネットワークを活用し、従来の信号処理アルゴリズムでは検出困難だった微小な異常を捕捉する。
テスト計測機器市場の主要プレイヤー比較
テスト計測機器市場は、NI(Emerson傘下)、Keysight Technologies、Teledyne LeCroy、Rohde & Schwarz、Advantestといった主要プレイヤーがしのぎを削っている。各社のAI対応状況と強みを比較する。
| 比較項目 | NI (Emerson) | Keysight Technologies | Teledyne LeCroy | Rohde & Schwarz | Advantest |
|---|---|---|---|---|---|
| 本社 | テキサス州オースティン | カリフォルニア州サンタローザ | ニューヨーク州チェスナット | ミュンヘン(独) | 東京(日本) |
| 2025年売上高 | 約$1.7B(約2,550億円) | 約$5.1B(約7,650億円) | 約$0.9B(約1,350億円) | 約$3.0B(約4,500億円) | 約$4.8B(約7,200億円) |
| 主力分野 | モジュール式テスト、LabVIEW | RF/マイクロ波、5G/6G | オシロスコープ、信号解析 | EMC、無線通信テスト | 半導体ATE |
| AI対応 | TestStand AI Advisor、AI Code Assistant | PathWave AI(テストデータ分析) | WavePro AI(波形異常検知) | R&S AI Test Lab | V93000 AI Option |
| プログラミング環境 | LabVIEW(グラフィカル) | PathWave(Python対応) | MAUI(独自API) | R&S Instrument Driver | SmarTest(独自DSL) |
| クラウド対応 | クラウドネイティブTestStand | Keysight Cloud Platform | 限定的 | 開発中 | Advantest Cloud |
| 強み | 柔軟なモジュール構成、エコシステム | RF計測の圧倒的精度 | 高帯域オシロ | 欧州規制適合テスト | 半導体テスト効率 |
| 弱み | 高価格帯のモジュール | ソフトウェアライセンス費用 | 限定的なAI機能 | クラウド対応遅れ | 汎用テスト市場の弱さ |
以下の図は、テスト計測機器市場における各主要プレイヤーの位置づけと強みの領域を示しています。
この図からわかるように、売上規模ではKeysightとAdvantest がリードしているが、AI統合の深さとエコシステムの柔軟性ではNIが先行している。
半導体テストにおけるAIの具体的活用
半導体テストは、AI活用の効果が最も顕著に現れる領域のひとつだ。NI Connect 2026では、以下の具体的なユースケースが発表される見込みだ。
ウェーハレベルテスト最適化: ウェーハ上の各ダイのテスト結果パターンをAIが学習し、隣接ダイのテスト結果から未テストダイの良品確率を予測する。「Spatial Pattern Recognition」と呼ばれるこの手法により、テスト時間を最大50%削減しながら、流出率(テストをすり抜ける不良品の割合)を0.1ppm以下に維持できる。
バーンイン最適化: 高温環境で長時間動作させるバーンインテストは、半導体の信頼性確保に不可欠だが、コストが高い。AIが各デバイスの電気的特性から信頼性リスクを予測し、バーンイン時間を個別に最適化する「Adaptive Burn-in」により、バーンイン工程のコストを30%削減できる。
テストフロー自動生成: デバイスのスペックシート(データシート)をAIに入力すると、テストフロー全体を自動生成する機能が開発中だ。テストエンジニアの初期設計工数を80%削減し、設計レビューに集中できるようにする。
自動車テストのAI活用
EV(電気自動車)の普及に伴い、自動車テストの複雑性は飛躍的に増している。バッテリーセル単体からパックレベル、車載ネットワーク、ADAS機能に至るまで、テスト対象は広範に及ぶ。
バッテリーテスト: リチウムイオンバッテリーの充放電サイクルテストにAIを適用し、バッテリーの劣化パターンを早期に検出する。従来は数千サイクルの充放電データが必要だったが、AIモデルにより100サイクル程度のデータから長期劣化トレンドを予測できるようになった。
ADAS HILテスト: カメラ、LiDAR、レーダーの複合センサーフュージョンをシミュレーション環境でテストする際、AIが数十万パターンのシナリオを自動生成する。従来の手動シナリオ設計では網羅しきれなかったコーナーケース(稀な走行状況)を系統的にテストできる。
EMC(電磁適合性)テスト: EVのインバーターやモーターから発生する電磁ノイズの測定データをAIが分析し、規制適合性を予測する。プロトタイプ段階でのEMC問題の早期発見により、設計のやり直しコストを大幅に削減できる。
通信テストの進化
5Gの商用展開が本格化し、6G研究が加速する中、通信テストの要件も急速に変化している。
O-RAN適合性テスト: オープンRAN(O-RAN)アーキテクチャでは、異なるベンダーの無線機器が相互接続する必要がある。AIがO-RAN仕様書から適合性テストケースを自動生成し、マルチベンダー環境での相互接続性を効率的に検証する。
6G研究向けテスト: 6G通信で想定されるサブTHz帯(100GHz-300GHz)の信号生成・解析に対応するテストプラットフォーム。AIがチャネルモデルを学習し、現実の伝搬環境をシミュレーションすることで、実環境テストの前段階での評価を可能にする。
デジタルツインテスト: 通信ネットワーク全体のデジタルツインを構築し、AIが負荷テストや障害シナリオをシミュレーションする。実ネットワークに影響を与えることなく、性能限界や障害復旧手順を検証できる。
日本の製造業テスト自動化の現状
日本は半導体テスト装置の世界最大手Advantestを擁し、自動車メーカーやエレクトロニクス企業が集積する「テスト大国」である。しかし、AI活用においては欧米企業に後れを取りつつある。
日本企業の課題
まず、レガシー装置の更新遅延が大きい。日本の製造現場では10-20年前のテスト装置が現役で稼働しているケースが多く、AI機能を追加するためのインターフェースやAPIが不足している。装置更新にはライン停止が伴うため、投資判断が慎重になりがちだ。
次に、テストエンジニアの高齢化と人材不足がある。日本の製造業では、熟練テストエンジニアの知見が暗黙知として蓄積されているが、そのノウハウの体系化・デジタル化が進んでいない。AIの導入により、この暗黙知を形式知化し、次世代に継承する取り組みが急務だ。
さらに、データサイロの問題がある。設計部門、製造部門、品質部門のテストデータが別々のシステムに格納されており、AI学習に必要な統合データセットの構築が困難な状況にある。
日本企業の強み
一方で、日本企業には強みもある。品質に対する文化的コミットメントは世界随一であり、AI導入の動機づけとしてこれ以上ない基盤がある。また、Advantestの存在は日本企業にとって大きなアドバンテージだ。Advantestは半導体ATE(Automatic Test Equipment)市場で世界シェア約50%を占めており、同社のAI機能拡充は日本の半導体エコシステム全体にメリットをもたらす。
主要動向として、トヨタはバッテリーテストへのAI導入を進めており、EVバッテリーの劣化予測精度を従来比で3倍に向上させた。ソニーセミコンダクタソリューションズはイメージセンサーのウェーハテストにAIパターン認識を活用し、テストスループットを25%改善している。
日本の製造業がAIテスト自動化で国際競争力を維持・強化するためには、以下の3つの施策が重要だ。
第一に、テストデータの統合基盤構築。設計・製造・品質のデータを統合するテストデータレイクの構築が不可欠だ。NI TestStandのクラウドネイティブ版やKeysight Cloud Platformの活用が有効な選択肢となる。
第二に、AIリテラシーの向上。テストエンジニアにAI/MLの基礎教育を提供し、AIツールを活用したテスト設計ができる人材を育成する。NI Connect 2026では「AI for Test Engineers」のトレーニングセッションも予定されている。
第三に、段階的な導入アプローチ。全テストラインの一斉刷新ではなく、パイロットラインでのPoC(概念実証)から始め、ROI(投資対効果)を実証した上で段階的に展開する。テスト時間短縮、歩留まり改善、ダウンタイム削減といった具体的なKPIを設定し、効果を測定しながら進めることが重要だ。
テスト自動化AIの料金体系
NI のAI関連ツールの料金は、2026年時点で以下のような構成になっている。
| プラン | 年額(USD) | 年額(日本円換算) | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| LabVIEW Professional + AI | $6,500 | 約97.5万円 | AI Code Assistant、Python統合、標準ライブラリ |
| TestStand AI Advisor | $4,200 | 約63万円 | テストフロー最適化、適応型テスト、異常検知 |
| STS AI Option | $12,000 | 約180万円 | 半導体テスト向けAIパターン最適化、バーンイン最適化 |
| Enterprise Bundle | $18,000 | 約270万円 | 全AI機能 + クラウドTestStand + プレミアムサポート |
Keysight PathWave AIは年額$8,000(約120万円)から、Advantest V93000 AI Optionは装置購入時のアドオンとして$15,000(約225万円)程度とされている。
テスト装置全体の投資額(PXIシステムで$50,000-$500,000、ATEシステムで$1M-$5M)と比較すれば、AIオプションの追加コストは相対的に小さく、テスト時間短縮によるROIは半年から1年で回収可能なケースが多い。
まとめ
NI Connect 2026は、テスト計測業界がAIドリブンの新時代に本格突入することを象徴するイベントだ。半導体の微細化、EVの普及、5G/6G通信の進化——これらの技術トレンドが複合的に作用し、テスト自動化のAI活用は「あればよい」ではなく「なければ競争できない」レベルに達している。
日本の製造業にとって、テスト自動化AIの導入は品質と生産性を両立させる鍵となる。Advantestの強みを活かしつつ、NI、Keysightなどのグローバルプレイヤーのソリューションも適材適所で取り入れるハイブリッドアプローチが現実的だ。
具体的なアクションステップ:
- 情報収集: NI Connect 2026(2026年5月開催)への参加登録またはオンラインセッションの視聴を検討する。TestStand AI AdvisorとLabVIEW 2026のデモを体験し、自社のテストワークフローへの適用可能性を評価する
- 現状分析: 自社のテストライン全体を棚卸しし、AIの導入効果が最も大きい工程(テスト時間が長い、不良流出率が高い、人手依存が大きい等)を特定する。テストデータの統合状況を確認し、データサイロの解消計画を策定する
- パイロット導入: 特定のテストラインでPoCを実施する。NI TestStand AI AdvisorまたはKeysight PathWave AIの評価ライセンスを取得し、3-6ヶ月のパイロット期間でテスト時間短縮率、歩留まり改善率、コスト削減額を定量的に測定する