クラウド15分で読める

Yandexから生まれた欧州AIクラウドNebius——5GW目標で米国ハイパースケーラーに挑む

Nvidiaから**$2B(約3,000億円)の出資を受け、Metaとは$27B(約4兆500億円)規模の契約を締結——。ロシアの「Google」と呼ばれたYandexからスピンオフしたNebius Groupが、欧州発のAIクラウドプロバイダーとして急速に存在感を高めている。同社は2030年までに5GW以上**のデータセンター容量を構築する計画を発表し、AWS・Azure・GCPといった米国ハイパースケーラーに真正面から挑もうとしている。

欧州がAI主権の確保に奔走するなか、Nebiusは単なる新興クラウドではなく、欧州AI戦略の要石となりうる存在だ。

Nebiusとは何か——Yandexからの独立

Nebiusの歴史を理解するには、まず親会社だったYandexの背景を知る必要がある。Yandexはロシア最大の検索エンジンを運営し、クラウドサービス、自動運転、フードデリバリーまで手がける巨大テック企業だ。ロシア語圏ではGoogleを上回るシェアを持ち、技術力は世界トップクラスと評価されていた。

しかし2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、Yandexの国際事業は深刻な制裁リスクにさらされた。NASDAQでの株式取引は停止され、海外投資家は撤退を余儀なくされた。この危機的状況のなか、Yandexの国際部門は2024年にスピンオフという形で独立を果たす。これが現在のNebius Groupだ。

項目詳細
設立2024年(Yandexからスピンオフ)
本社アムステルダム(オランダ)
CEOArkady Volozh(元Yandex共同創業者)
上場市場NASDAQ(ティッカー: NBIS)
従業員数約2,000名(2026年時点推定)
データセンター拠点フィンランド、オランダ、拡大中
主要投資家Nvidia ($2B)、Accel、Orbis
評価額約$15B(約2.25兆円、2026年3月時点)

Nebiusの経営陣は、Yandex時代に培った世界クラスのAIインフラ技術をそのまま持ち出した形だ。CEOのArkady Volozhは1997年にYandexを共同創業した人物で、ロシアのテック業界では伝説的な存在。彼のもとに集まったロシア出身のエンジニアたちが、アムステルダムを拠点に「ロシア技術のディアスポラ」とも呼べるチームを形成している。

以下の図は、Nebiusの成り立ちと事業構造を示しています。

Nebiusの成り立ちと事業構造。Yandexからのスピンオフ経緯、4つの事業セグメント(AIクラウド、データセンター、AI Studio、Avride)、主要投資家を図解

この図のとおり、Nebiusは単なるクラウドサービスではなく、AIインフラからMLOpsプラットフォーム、さらには自動運転ロボティクス(Avride)まで手がける総合AIテック企業だ。

5GW計画の技術的意味

Nebiusが掲げる「2030年までに5GW以上」という目標は、どれほどの規模なのか。一般的な家庭の電力消費が約1kWであることを考えると、5GWは約500万世帯分に相当する。現在世界最大級のデータセンターであるxAIのColossus(メンフィス)が約150MWであることを踏まえれば、5GWはその33倍以上の規模だ。

現在のインフラ状況

Nebiusは現在、主に2拠点でデータセンターを運営している。

拠点容量特徴
マントサラフィンランド約200MW北欧の冷涼気候を活用した高効率冷却
アムステルダムオランダ約100MWAMS-IXに隣接、低レイテンシ
新規拠点(計画中)欧州・中東・アジア4.7GW+2026-2030年に段階的に建設

現在の合計容量は約300MW(0.3GW)にすぎない。これを5年間で17倍に拡大するという計画は、きわめて野心的だ。

なぜ5GWが必要なのか

AIモデルの学習と推論には、従来のクラウドワークロードとは比較にならない電力が必要だ。たとえばGPT-4級のモデル学習には数千台のH100 GPUを数ヶ月間フル稼働させる必要があり、消費電力は数十MWに達する。さらに2026年以降は、Nvidiaの次世代GPU(Blackwell B200、さらにその先のRubin)が普及することで、1クラスタあたりの電力需要はさらに増大すると予想される。

Nebiusの5GW計画は、こうしたAIコンピュートの指数的な需要増を見据えたものだ。同社はNvidiaのB200を大量に調達済みとされ、欧州で最大規模のNvidia GPUクラスタを運用している。

巨大パートナーシップの全貌

Nebiusの急成長を支えているのは、2つの巨大ディールだ。

Nvidia:$2Bの戦略的出資

2025年後半、NvidiaはNebiusに対して**$2B(約3,000億円)**を出資した。これは単なる財務投資ではなく、GPUの優先供給を含む戦略的パートナーシップだ。Nvidiaにとって、AWS・Azure・GCPの3社に過度に依存するクラウド市場の構造は、交渉力の面でリスクになりうる。Nebiusのような「第四のクラウド」の育成は、Nvidiaの長期的な利益にかなう。

Meta:$27Bのインフラ契約

2026年初頭に報じられたMetaとの**$27B(約4兆500億円)**規模の契約は、業界を震撼させた。MetaはLLaMAシリーズのAIモデル学習に膨大なコンピュートリソースを必要としており、自社データセンターだけでは足りない分をNebiusに委託する形だ。この契約は複数年にわたるもので、Nebiusの売上を一気に安定させる効果がある。

比較項目AWSAzureGCPNebius
欧州DC容量(2026)約3.5GW約3.0GW約2.0GW約0.3GW
AI特化設計部分的部分的部分的全面的
GPU調達の優位性大量発注大量発注大量発注Nvidia直接出資
データ主権米国企業米国企業米国企業欧州企業
AIワークロード最適化汎用中心汎用中心TPU独自路線GPU特化
主要顧客多業種エンタープライズスタートアップAI企業

欧州AI主権への貢献

Nebiusの台頭は、欧州のAI戦略においてきわめて重要な意味を持つ。

EU AI ActとGDPRの影響

EUのAI規制法(AI Act)およびGDPRは、AIモデルの学習データがEU域内で処理されることを強く推奨している。現状、欧州のAI企業やスタートアップの多くはAWS・Azure・GCPといった米国クラウドに依存しており、データ主権の観点から政治的なリスクを抱えている。

Nebiusはオランダに本社を置く欧州企業であり、データセンターもフィンランド・オランダに所在する。これにより、EU域内でのデータ処理を完結できるという強みがある。フランスのMistral AIやドイツのAleph Alphaといった欧州AIスタートアップにとって、Nebiusは「安心して使える欧州のAIクラウド」として魅力的な選択肢となる。

北欧の地理的優位性

フィンランドのデータセンターは、北欧の冷涼な気候を活用した自然冷却が可能だ。一般的なデータセンターでは電力消費の30-40%が冷却に使われるが、Nebiusのフィンランド拠点ではこの比率を大幅に削減できる。これはPUE(Power Usage Effectiveness)の改善に直結し、運用コストの削減と環境負荷の低減を同時に実現する。

以下の図は、欧州AIクラウド市場におけるNebiusのポジションを示しています。

欧州AIクラウド市場のデータセンター容量比較。AWS、Azure、GCP、Nebius、OVHcloudの2026年現在値と2030年目標値を棒グラフで示す

この図が示すとおり、Nebiusの現在の規模は米国ハイパースケーラーに比べればごく小さい。しかし2030年の目標値はAWSと同等の5GW超であり、実現すれば欧州AIインフラの勢力図を一変させるインパクトがある。

料金体系とサービス

Nebiusは、AIワークロードに特化した料金体系を採用している。

サービス料金(2026年3月時点)比較(AWS相当)
H100 GPU(オンデマンド)$2.50/時間$3.40/時間(p5.xlarge)
B200 GPU(オンデマンド)$4.20/時間未公開
リザーブド(1年契約)最大40%割引最大30%割引
ストレージ(高速NVMe)$0.08/GB/月$0.10/GB/月
ネットワーク(InfiniBand)400Gbps標準搭載オプション

日本円換算では、H100 GPUが1時間あたり約375円($1=150円換算)。AWSの同等インスタンスと比較して約25%安い設定だ。リザーブドインスタンスの割引率もAWSを上回っており、長期契約を前提としたAI企業にとっては大きなコスト削減になる。

さらに特筆すべきは、NebiusのAIクラスタは400Gbps InfiniBandネットワークが標準搭載されている点だ。AWSやAzureでは高速ネットワークはオプション扱いであり追加費用が発生するが、Nebiusではマルチノード学習に最適化されたネットワークがデフォルトで利用可能だ。

リスクと課題

もちろん、Nebiusの前途が順風満帆とは限らない。

ロシアとの歴史的つながり

Yandexからのスピンオフという経緯は、欧米の規制当局や顧客にとって懸念材料になりうる。Nebiusは法的にはオランダ企業であり、ロシア国内の事業はすべて売却済みだが、経営陣の多くがロシア出身であることは事実だ。特に安全保障に敏感な政府系プロジェクトでは、この出自がハンディキャップになる可能性がある。

資金調達の持続性

5GWのデータセンター建設には数百億ドル規模の投資が必要だ。Nvidiaの$2BやMetaの契約は大きな後ろ盾だが、5年間にわたる建設費用をまかなうには追加の資金調達が不可欠だろう。市場ではIPO(新規株式公開)による大型調達が予想されているが、地政学リスクが投資家の判断にどう影響するかは未知数だ。

人材確保の競争

AIインフラエンジニアは世界的に不足しており、Google・Amazon・Microsoftといった大手と人材を奪い合う状況だ。Nebiusはロシア出身の優秀なエンジニアを多数抱えているが、組織のさらなる拡大には欧州・米国からの新規採用が必要になる。

日本への影響と展望

Nebiusの動向は、日本のAI戦略にとっても示唆に富む。

日本の「AIクラウド主権」問題

日本のAI企業やスタートアップも、その大半がAWS・Azure・GCPに依存している。経済安全保障の観点から、日本国内でのAIインフラ整備の重要性は増しており、さくらインターネットやGMOインターネットがAI向けGPUクラウドに参入している。Nebiusの成功は、「大手ハイパースケーラー以外の選択肢」が成立しうることの証明になる。

日本市場への進出可能性

Nebiusは現在、欧州を中心に展開しているが、中東・アジアへの拡大も計画に含まれている。日本は世界第3位のクラウド市場であり、Nebiusが将来的に日本拠点を設ける可能性はゼロではない。特にGDPRと同様のデータローカライゼーション要件を持つ日本は、Nebiusの「データ主権」メッセージが刺さりやすい市場だ。

クラウド選定の再考

日本企業がクラウドプロバイダーを選定する際、米国3社だけでなく欧州勢も選択肢に入れる時代が来つつある。特にAIワークロードに特化したNebiusのようなプロバイダーは、汎用クラウドでは実現できないコストパフォーマンスを提供できる可能性がある。

現時点で日本からNebiusを直接利用するのは現実的ではないが、GCPなどの既存クラウドでAI基盤を構築しつつ、Nebiusのようなオルタナティブの動向をウォッチしておくことは有効だ。

Google Cloudは日本リージョンでGPUインスタンスを提供しており、国内でAIインフラを構築する際の有力な選択肢となる。

まとめ——「第三極」の誕生

Nebiusの挑戦は、AIクラウド市場が米国ハイパースケーラー3社の寡占から多極化へと向かう転換点を象徴している。Yandexという巨大テック企業のDNAを持ちながら、欧州のデータ主権ニーズに応え、NvidiaやMetaという強力なパートナーを獲得した同社は、単なる「挑戦者」以上の存在になりつつある。

今後注目すべきアクションステップは以下のとおりだ。

  1. Nebiusの四半期決算をウォッチ: 売上成長率とデータセンター建設の進捗を確認。NASDAQのティッカー「NBIS」で追跡可能
  2. 欧州AI規制の動向を把握: EU AI ActのフェーズII施行(2026年後半)が欧州クラウド市場にどう影響するかを注視
  3. 自社AIワークロードの最適化を検討: 米国クラウドへの一極集中リスクを認識し、マルチクラウド戦略やデータローカライゼーション要件を再評価する

AI時代のインフラ覇権争いは、もはや米国だけの舞台ではない。欧州から現れたNebiusが、その勢力図をどこまで塗り替えるか——2030年までの動向から目が離せない。

この記事をシェア