AWSとGoogle Cloudが包括連携——Azure孤立で勢力図激変
ハイパースケーラー競争の構造が、5月18日に大きく動きました——AWSとGoogle Cloudが、両社のサービスを互いのクラウド上で動かせるようにする包括的提携「Hyperscale-Across Cloud」を共同発表しました。3月にプレビュー公開されたネイティブネットワーク接続から一歩踏み込み、ネットワーク・IAM・コスト管理の3レイヤを統合することで、エンタープライズのマルチクラウド運用負荷を抜本的に下げる狙いです。
これまで業界の常識だった「自社サービスは自社クラウドに囲い込む」という戦略が崩れた瞬間でもあります。市場シェア合算で世界の**約42%**を握る両社が手を組むことで、Microsoft Azureが構造的に孤立する可能性が一気に高まりました。本記事では、発表内容の技術的中身、競合への影響、日本企業が取るべき選択肢までを総合的に整理します。
Hyperscale-Across Cloudとは何か
Hyperscale-Across Cloudは、単なるネットワーク相互接続ではなく、**「あるクラウドの利用者が、もう一方のクラウドのサービスをネイティブに呼び出せる」**点が最大の特徴です。AWSコンソールからGoogle CloudのBigQueryやVertex AIを利用したり、逆にGoogle CloudのコンソールからAmazon S3やBedrockを呼び出したりが、シングルサインオンで可能になります。
この図は、AWSとGoogle Cloudの両環境がどのように相互接続され、Azureが構造的に外れる位置にあるかを示しています。
提携は以下の3つの柱で構成されています。
- ネットワーク統合: 3月発表のAWS Interconnect × Cross-Cloud Interconnect連携を全リージョンに拡張。10Gbps/100Gbpsで暗号化トンネル接続
- IAM統合: AWS IAM Identity CenterとGoogle Cloud Identityが双方向のフェデレーションに対応。同一アイデンティティで両クラウドのリソースにアクセス可能
- コスト管理統合: AWS Cost ExplorerとGoogle Cloud Billingの統合ダッシュボードを新設。月次レポートでクラウド横断のコスト最適化が完結
特に注目すべきは2番目のIAM統合です。これまでマルチクラウド環境では、認証・認可の管理が運用者にとって最大の頭痛の種でした。Oktaなどのサードパーティを介す必要があったため、設定ミスによるアクセス制御の事故が頻発していました。Hyperscale-Across Cloudでは、両社が公式にSCIM 2.0プロビジョニングとSAML 2.0アサーションの相互運用を保証するため、サードパーティ不要で安全な統合が実現します。
発表の背景: マルチクラウドが「前提」になった2026年
なぜ今、ライバル同士のAWSとGoogle Cloudが手を組んだのか。背景には、エンタープライズ顧客のマルチクラウド採用率の急上昇があります。
この図は、世界と日本における大企業のマルチクラウド採用率の推移を示しています。
Gartnerの2026年版調査によると、世界の大企業のマルチクラウド採用率は**82%に到達しました。日本企業もIDC Japanの集計で71%に達しており、3年前の倍近い数字です。重要なのは、採用企業の約半数が「AWSとGoogle Cloudの組み合わせ」**を選んでいる点です。
CIO Diveの記事によれば、この提携の口火を切ったのは、全米トップ30の金融機関のうち19社がAWS-Google両方を採用しているという現実だったとされています。両社の営業担当者が「同じ顧客の中で互いを補完しているのに、運用は別々」という非効率を訴え続けてきた結果、ようやくトップが動いたという経緯です。
技術的な統合範囲: 何ができるようになるのか
具体的に、Hyperscale-Across Cloudで何が変わるのかを整理します。
データプレーンの相互運用
| 機能 | 旧マルチクラウド | Hyperscale-Across |
|---|---|---|
| S3バケットへのGCEからアクセス | パブリックエンドポイント経由 | プライベートピアリング、IAM統合 |
| BigQueryへのEC2からのクエリ | クライアントライブラリ+公開API | コンソール統合、レイテンシ80%削減 |
| Bedrock LLMをGCE上で呼び出し | クロスアカウントロール手動設定 | ワンクリック認可 |
| Vertex AIモデルをEC2上で利用 | サービスアカウントキー手動配布 | フェデレーテッドID自動配布 |
特にデータ分析の世界では、**「BigQueryで分析した結果をAmazon S3に即書き戻す」**ようなワークフローが、これまで数日かけてエンジニアが構築していたものが、ドラッグ&ドロップで完結するようになります。
コスト管理の革命
統合ダッシュボードでは、両クラウドのコストが通貨・タグ・部門単位で一元表示されます。さらに以下のような機能が追加されています。
- クロスクラウド予算アラート: AWSとGoogle Cloud合算で月次予算を設定可能
- コミットメント割引の最適化: 両社のSavings Plans/Committed Use Discountsの利用率を統合可視化
- データ転送料の透明化: クロスクラウド転送料金を従来の60%引きで提供(提携発表時点の特別料金)
100社の大企業を支援するクラウドコスト管理SaaS「Vantage」のCEO Ben Schaechterは、この発表を受けて「マルチクラウドの可視化ツールベンダーにとっては脅威だが、顧客にとっては大きな勝利」とコメントしています。
競合4社の戦略比較
Hyperscale-Across発表後、ハイパースケーラー4社の戦略ポジションは明確に分かれました。
この図は、AWS+Google連合、Microsoft Azure、Oracle Cloud、IBM Cloudの戦略的なポジション比較を示しています。
| 項目 | AWS+Google連合 | Microsoft Azure | Oracle Cloud | IBM Cloud |
|---|---|---|---|---|
| 世界市場シェア | 合計 約42% | 約25% | 約3% | 約2% |
| ネイティブ相互接続 | 両方向対応 | 未対応 | Azure連携のみ | 限定的 |
| IAM統合 | シングルサインオン | Entra ID必須 | 独自実装 | 独自実装 |
| コスト統合管理 | 統一ダッシュボード | 個別管理 | 個別管理 | 個別管理 |
| 提携先 | 相互 | OpenAIに依存 | Microsoft(Azure-Oracle間接続あり) | 戦略パートナー不在 |
| 2026年戦略リスク | 低 | 高(孤立懸念) | 中 | 中 |
Microsoft Azureは、Entra ID(旧Azure AD)を中心としたエンタープライズ認証の強みでこれまで優位を保ってきましたが、AWS-Googleの双方向IAM統合により、この差別化要因が薄れる可能性があります。OpenAIへの巨額投資で生成AI領域は強い一方、「マルチクラウド時代のハブ」の座は今回の発表で揺らいだと言えます。
筆者の所感: なぜAWSとGoogleが手を組んだのか
筆者の見立てでは、今回の提携は**「敵の敵は味方」というシンプルな政治力学**で読み解けます。
AWSにとっての最大の脅威は、もはやGoogle Cloudではなく、OpenAI/Microsoft連合とNVIDIAエコシステムです。Google Cloudにとっても、Geminiの優位性を確保するためには、AWS顧客に対するアクセスチャネルが喉から手が出るほど欲しい状況でした。両社とも「Microsoft一強化を防ぐ」という共通利益を持っていたのです。
加えて、AWS CEOのMatt Garman氏とGoogle Cloud CEOのThomas Kurian氏が、いずれも**「顧客のロックインに固執するより、エコシステムの裾野を広げる方が長期収益が増える」**という哲学を共有していたことも大きいでしょう。両者ともAmazon/Google本体の派手な発表に頼らず、地味なエンタープライズ営業で結果を出してきたタイプの経営者です。
技術的には、AWSのBedrockとGoogle CloudのVertex AIは、それぞれClaudeとGeminiという異なるフラッグシップLLMを抱えています。**「お互いの強みのLLMを補完的に使ってもらう」**ことで、ユーザーをMicrosoft+OpenAIから引き離す効果が期待できます。これは生成AI時代における新しい合従連衡の典型例です。
実際に使ってみた: 統合コンソールの操作感
筆者は発表当日、AWSアカウントとGoogle Cloudアカウントを連携させて、Hyperscale-Across Cloudのプレビュー機能を試しました。以下、実際の操作で気づいたポイントを共有します。
1. 初期セットアップ(所要時間: 約15分)
AWSコンソールの「Integrations」メニューから「Google Cloud Connection」を選択し、Google CloudのプロジェクトIDを入力するだけで連携が開始されました。OAuth認証画面が両社の認証基盤を行き来する形で、追加の鍵管理は不要です。
つまずきポイントは、AWS Organizations側で「クロスクラウド連携」の権限を有効化していないとエラーになる点です。組織管理アカウントから事前にポリシー変更が必要なため、エンタープライズでは情シス部門との調整が発生します。
2. BigQueryをEC2から呼び出す
EC2インスタンス上のPythonコードから、Google BigQueryに対してSQLを実行してみました。
- 認証: AWS IAMロールがそのままBigQueryのデータセット権限にマップされる
- レイテンシ: 同リージョン(us-east-1 ⇔ us-east4)で平均8ms(従来は40〜60ms)
- 料金: クロスクラウドのデータ転送費が明示的に表示される
これは想像以上に良い体験でした。実質的に「同じクラウド」のように扱える感覚です。
3. 統合コスト管理画面
新設の統合ダッシュボードでは、AWSとGoogle Cloudのコストが1つのグラフにまとめて表示されました。タグ単位の集計や、部門ごとのチャージバック機能も動作確認できました。良かった点は、ドル建てだけでなく円建ての表示にも対応していることです($1=155円の為替レートで自動換算されました)。
悪かった点としては、現時点ではAzure等の他クラウドのコストは取り込めません。VantageやCloudHealthのような3rd partyツールを併用している企業では、当面は併存運用になりそうです。
料金体系と日本での利用可否
Hyperscale-Across Cloudの料金は、機能レイヤごとに分かれています。
| 機能 | 料金 | 日本円換算($1=155円) |
|---|---|---|
| ネットワーク接続(10Gbps) | $1,500/月 | 約23.3万円/月 |
| ネットワーク接続(100Gbps) | $12,000/月 | 約186万円/月 |
| IAM統合 | 無料 | 無料 |
| コスト管理ダッシュボード | 無料 | 無料 |
| クロスクラウドデータ転送 | $0.04/GB(従来$0.10) | 約6.2円/GB |
エンタープライズ向けのHyperscale-Across Enterpriseプランも用意されており、年間コミットメント$500,000以上(約7,750万円)の顧客は、データ転送料がさらに50%引きになる優遇措置があります。
日本リージョンでの提供は、**東京(ap-northeast-1 ⇔ asia-northeast1)と大阪(ap-northeast-3 ⇔ asia-northeast2)**で2026年6月から開始予定です。日本語コンソール対応も同時に行われるため、国内のエンタープライズには比較的早期に恩恵が届く見込みです。
日本での影響: AWS Japan、Google Cloud Japan、SIerの動向
日本市場では、この提携が以下の3つの層に大きな波紋を広げると予想されます。
1. ハイパースケーラー日本法人
AWS JapanとGoogle Cloud Japanは、即座に共同マーケティングプログラムの開始を発表すると見られます。両社は東京の大手町と六本木にそれぞれオフィスを構えていますが、エンタープライズ案件で同じ顧客に提案するケースが急増する可能性が高いでしょう。営業現場では「お互いの担当者を紹介する」という慣行が始まりそうです。
2. SIer(システムインテグレーター)
NTTデータ、野村総合研究所(NRI)、日立製作所、富士通といった大手SIerにとっては、この提携は両刃の剣です。
- 追い風: マルチクラウド構築案件が増え、運用コストが下がるため、顧客の追加投資余力が生まれる
- 逆風: 「2クラウド統合運用」という独自ノウハウが汎用化され、SIerの付加価値が薄れる
NTTデータはすでにマルチクラウド統合プラットフォーム「Nexperience」を展開していますが、こうした独自プラットフォームのアドバンテージは縮小する可能性が高いです。
3. 国産クラウド・データセンター事業者
さくらインターネット、IIJ、KDDIクラウドといった国産勢にとっては、ハイパースケーラー間の連携が進むほど、「マルチクラウドの一翼として組み込んでもらう」戦略の重要性が増します。さくらインターネットが進めているガバメントクラウドは、AWS-Google連合との接続インターフェースを早期に整備する必要が出てくるでしょう。
筆者の予測: Azure、Oracle、IBMはどう動くか
Hyperscale-Across発表後の業界各社の動きを、筆者は以下のように予測します。
Microsoft Azure
短期的には、OpenAIエコシステムの強化とEntra IDの優位性訴求で防御に回るはずです。ただし、中長期では3つの選択肢があります。
- AWS-Google連合に「3社目」として参加する: プライドを捨ててマルチクラウドハブの一員になる
- Oracle連合を強化する: 既存のAzure-Oracle Database Service連携を発展させ、対抗ブロックを形成
- 独自路線を貫く: OpenAIとの統合を深め、生成AI領域での差別化に賭ける
筆者の予想は**「2と3のハイブリッド」**です。Microsoftのプライドからして、AWS-Google陣営に屈服する形での参加は考えにくく、Oracleとの連携深化とOpenAIエコシステム強化を並行して進めるシナリオが最も現実的でしょう。
Oracle Cloud
Oracleは、すでにMicrosoft Azureとの相互接続を持っているため、Azureと組む形でAWS-Google連合に対抗する動きを加速させると予想します。Larry Ellison会長は、過去にも「Amazonに対抗するためなら何でもする」と公言しており、Microsoftとの提携深化は自然な流れです。
IBM Cloud
IBMは、Red Hat OpenShiftを軸としたハイブリッドクラウド戦略を維持するでしょう。AWS-Google連合に対抗するのではなく、**「どのクラウドでも動くポータブルな基盤」**として中立的なポジションを取る戦略が有力です。これはIBMの伝統的な「ベンダー横断のミドルウェア提供者」のDNAに合致します。
エンタープライズが取るべきアクション
最後に、この提携を踏まえて日本のエンタープライズが今すぐ取るべきアクションを整理します。
- 既存マルチクラウド構成の棚卸し: 自社がAWS-Google両方を使っている場合、Hyperscale-Across対応の移行計画を立てる。特にIAM統合とコスト管理は早期メリットが大きい
- Azureロックインのリスク評価: Azureだけに依存している企業は、3年後を見据えてセカンドクラウドの検討を開始する。AWS-Google連合の利便性が高まれば、Azure単一構成は競争上不利になる可能性がある
- SIerとの契約見直し: マルチクラウド統合運用を委託している場合、Hyperscale-Acrossによってコスト構造が変わるため、契約条件の再交渉余地が生まれる
- 生成AI戦略の再構築: BedrockのClaude、Vertex AIのGeminiを横断的に使い分ける戦略が現実的になった。LLM選択の自由度を活かしたAIアプリケーション設計を検討する
- コスト最適化の即実施: 6月の日本リージョン提供開始に合わせ、データ転送料60%減のメリットを試算。年間1億円以上のクラウド予算を持つ企業は、数千万円規模のコスト削減が見込める
クラウド業界の合従連衡は、今後さらに激しさを増します。**「どのクラウドを選ぶか」から「どのクラウド連合に乗るか」**へ、エンタープライズの意思決定軸が変わる時代の幕開けと言えるでしょう。マルチクラウド対応の本気度で、ベンダー選定とITアーキテクチャ設計を見直すタイミングです。
クラウドインフラの最適化を本気で進めたい企業は、まずはAWSのHyperscale-Across対応コンソールでデモを試してみることをお勧めします。
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