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Flexera 2026年レポート:全企業がGenAIを利用、クラウド評価軸は「価値」へ転換

Flexeraが発表した「2026 State of the Cloud Report」は、エンタープライズのクラウド利用動向を定点観測する業界随一のレポートだ。今年の結果は衝撃的で、調査回答者の100%がGenAI(生成AI)を利用しており、そのうち45%が「広範に活用」(前年比+9ポイント)していることが明らかになった。さらに注目すべきは、クラウドの成功を測る指標として**「ビジネス提供価値」(64%、+12ポイント)**が「コスト最適化」を初めて上回ったことだ。クラウドは「コスト削減のための手段」から「ビジネス価値を生み出すプラットフォーム」へと、その評価軸自体が大きく転換しつつある。

Flexeraクラウドレポートとは何か

Flexera(旧RightScale)の「State of the Cloud Report」は、2013年から毎年発表されているエンタープライズクラウド利用の実態調査レポートだ。北米・ヨーロッパを中心とした大企業(従業員1,000名以上)から中小企業まで、約800社以上のIT意思決定者を対象に、クラウドの採用状況、支出、課題、戦略を調査している。

13年の歴史を持つこのレポートは、クラウド市場のトレンドを追う上で最も信頼性の高いデータソースの一つとして、Gartner、Forrester、IDCの調査と並んで業界で広く引用されている。

2026年レポートの主要ハイライト

項目2025年2026年変化
GenAI利用率92%100%+8pt
GenAI広範活用率36%45%+9pt
最重要評価指標: ビジネス価値52%64%+12pt
最重要評価指標: コスト最適化60%56%-4pt
ハイブリッドクラウド採用率74%78%+4pt
マルチクラウド採用率89%91%+2pt
クラウド支出の無駄28%24%-4pt
FinOps導入率45%58%+13pt

GenAI導入の現状:「全員利用」の時代へ

以下の図は、GenAI導入度合いの推移を示している。

GenAI導入度合い推移:2024年の実験段階から2026年の全員利用へと急速に普及した推移グラフ

100%利用の意味

調査回答者の100%がGenAIを利用しているという結果は、GenAIが実験フェーズから実用フェーズへ完全に移行したことを意味する。2024年には20%が「実験段階」と回答していたが、2026年にはその層が消滅した。

具体的な利用状況は以下の通りだ。

  • 45%が「広範に活用」: 社内の複数部門・業務プロセスでGenAIを本格的に活用
  • 55%が「一部で利用」: 特定のチームやユースケースに限定して活用
  • 0%が「実験段階のみ」: 全社でPoCを超えた実運用に移行

GenAIの主要ユースケース

レポートでは、エンタープライズにおけるGenAIの主要ユースケースも調査されている。

ユースケース採用率前年比
コード生成・開発支援78%+15pt
カスタマーサポート自動化72%+18pt
文書作成・要約68%+12pt
データ分析・BI62%+20pt
マーケティングコンテンツ生成58%+10pt
セキュリティ分析45%+22pt
社内ナレッジ検索42%+25pt

特に「データ分析・BI」(+20pt)、「セキュリティ分析」(+22pt)、「社内ナレッジ検索」(+25pt)の伸びが顕著だ。これらは2024年時点では「実験段階」が多かった領域であり、2025年のPoC期間を経て2026年に本格展開が進んだことを示している。

クラウド評価指標の大転換:「コスト」から「価値」へ

以下の図は、クラウドの成功を測る評価指標の変化を示している。

クラウド評価指標の変化:「ビジネス提供価値」が64%で初めてトップに立ち、従来1位だった「コスト最適化」56%を逆転

歴史的な転換点

2026年レポートで最も注目すべきは、「ビジネス提供価値」(64%)が「コスト最適化」(56%)を初めて逆転したことだ。

これは、クラウドに対する経営層の期待が根本的に変わりつつあることを示している。

過去の評価軸(〜2024年)

クラウド導入の黎明期からこれまで、「クラウドの成功」は主にコスト削減で測られてきた。

  • オンプレミスと比較してどれだけコストを削減できたか
  • Reserved Instances/Savings Plansの適用率
  • アイドルリソースの削減率
  • クラウド支出の無駄の圧縮率

新しい評価軸(2026年〜)

2026年には、クラウドの価値を「コスト」ではなく「ビジネスへの貢献度」で測る動きが加速している。

  • ビジネス提供価値(64%): クラウドがビジネスの成長・変革にどれだけ貢献したか
  • イノベーション速度(44%): 新機能・新サービスの市場投入までの時間短縮
  • デプロイ速度(37%): 開発からデプロイまでのリードタイム

なぜ「価値」へのシフトが起きたのか

この転換の背景には、以下の3つの要因がある。

  1. GenAIによる収益創出: GenAIを活用した新サービス・新機能が直接的に売上を生み出すようになり、クラウドが「コストセンター」ではなく「プロフィットセンター」として認識されるようになった
  2. FinOpsの成熟: FinOps(クラウド財務管理)のプラクティスが普及し、コスト最適化は「当たり前のこと」になった。導入率が45%→58%に伸びたことで、コスト管理は差別化要素ではなくなりつつある
  3. 経営層のクラウドリテラシー向上: CxOレベルのクラウド理解が深まり、「クラウド=コスト削減」という単純な図式から脱却した

ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの現状

ハイブリッドクラウドが主流

レポートでは、78%の企業がハイブリッドクラウド(パブリッククラウド+オンプレミス/プライベートクラウド)を採用していることが明らかになった。

クラウド戦略2024年2025年2026年
パブリッククラウドのみ18%15%12%
ハイブリッドクラウド70%74%78%
オンプレミスのみ12%11%10%

ハイブリッドクラウドが主流である背景には、以下の理由がある。

  • 規制要件: 金融・医療・政府機関では、特定のデータをオンプレミスに保持する義務がある
  • レイテンシー要件: 製造業のIoTやリアルタイム処理では、エッジ/オンプレミスが必要
  • コスト最適化: 安定したワークロードはオンプレミスの方がTCOが低い場合がある
  • GenAIのデータ主権: 機密データをパブリッククラウドのLLMに送信することへの懸念

マルチクラウドの実態

91%の企業がマルチクラウド(複数のパブリッククラウドを利用)を採用している。

クラウドプロバイダー利用率主要ワークロード
AWS76%コンピュート、ストレージ
Microsoft Azure72%エンタープライズアプリ、Active Directory連携
Google Cloud48%データ分析、AI/ML
Oracle Cloud22%データベース、ERP
IBM Cloud15%レガシーワークロード

マルチクラウドを採用する主な理由は以下の通りだ。

  • ベストオブブリード: 各クラウドの強みを活かしたサービス選択(例: データ分析はBigQuery、コンテナはEKS)
  • ベンダーロックイン回避: 特定のクラウドへの依存度を下げてリスク分散
  • M&Aによる統合: 買収先企業が異なるクラウドを使っていた結果としてのマルチクラウド化
  • 地理的要件: リージョンのカバレッジに応じて複数プロバイダーを使い分け

クラウド支出とFinOpsの動向

クラウド支出の無駄は改善傾向

レポートでは、企業のクラウド支出のうち24%が「無駄」(未使用リソース、過剰プロビジョニング等)と報告されている。これは2024年の32%、2025年の28%から改善傾向にある。

クラウド支出の無駄FinOps導入率
2024年32%35%
2025年28%45%
2026年24%58%

FinOps導入率の向上(35%→58%)が、クラウド支出の無駄削減に直結していることがわかる。

GenAIが新たなコスト課題に

一方で、GenAIの本格導入に伴い、新たなコスト課題が浮上している。

  • GPUインスタンスのコスト: A100/H100等のGPUインスタンスは通常のコンピュートインスタンスの10〜50倍のコスト
  • 予測困難な利用量: GenAIの利用量はバースト的で予測が難しく、Reserved Instancesの最適化が困難
  • 推論コストの増大: 学習コストだけでなく、推論(インファレンス)コストがエンドユーザー利用の増加に伴って急増

レポートでは、**GenAIのクラウドコストを適切に管理できている企業は32%**に留まっており、残りの68%は「GenAI関連のコストの可視化・最適化が不十分」と回答している。

クラウドの課題トップ5

2026年レポートで報告されたクラウドの課題トップ5は以下の通りだ。

順位課題回答率前年比
1セキュリティ79%-2pt
2コスト管理73%-5pt
3コンプライアンス/ガバナンス68%+3pt
4GenAIのコスト管理62%新規
5クラウド人材の確保58%-1pt

「GenAIのコスト管理」が新たに4位にランクインしたことが、2026年レポートの特徴的なポイントだ。GenAIの普及により、従来のクラウドコスト管理では対応できない新たなコスト課題が生まれていることを示している。

日本への影響

日本企業のクラウド動向

日本のクラウド市場は、グローバルトレンドを1〜2年遅れで追従する傾向がある。Flexeraのレポートから、日本企業への示唆を整理する。

GenAI導入の加速

日本でもGenAIの企業利用は急速に進んでいる。総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、日本企業のGenAI利用率は2025年時点で約70%(実験段階含む)とされており、Flexeraのグローバルデータ(2025年: 92%)と比較すると20ポイント以上の差がある。

しかし、2026年に入ってからは日本でも以下の動きが加速している。

  • メガバンク3行のGenAI全社展開: 三菱UFJ、三井住友、みずほが相次いでGenAIの全社展開を発表
  • 製造業のGenAI活用: トヨタ、ソニー、日立がGenAIを品質管理・設計プロセスに本格導入
  • 官公庁のGenAI採用: デジタル庁がChatGPT/Claude/Geminiの業務利用ガイドラインを策定

FinOpsの遅れ

日本企業のFinOps導入はグローバルに比べて遅れている。Flexeraのグローバルデータでは58%がFinOpsを導入しているが、日本ではまだ20〜30%程度と推定される。

その背景には以下の要因がある。

  1. クラウド支出の可視化ツールの未導入: AWS Cost Explorer / Azure Cost Management等の基本ツールすら活用できていない企業が多い
  2. 財務部門とIT部門の連携不足: FinOpsはクロスファンクショナルなプラクティスだが、日本の組織文化では部門間連携が難しい
  3. FinOps人材の不足: FinOps Foundation認定のFinOps Practitionerは日本にまだ数百人程度

ハイブリッドクラウドの重要性

日本では金融庁のFISC安全対策基準、経済産業省のクラウドセキュリティガイドラインなど、規制要件によりオンプレミスの維持が求められるケースが多い。Flexeraレポートが示すハイブリッドクラウドの主流化(78%)は、日本企業の戦略とも合致しており、今後もオンプレミスとパブリッククラウドの併用が続くと予想される。

「ビジネス価値」評価への転換

日本企業でも、クラウドの評価指標が「コスト削減」から「ビジネス価値」へとシフトする兆候が見られる。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業では、クラウドを「IT効率化のツール」ではなく「新規事業・新サービスのプラットフォーム」として位置づける動きが広がっている。

経済産業省の「DXレポート2.2」でも、「ITをコストセンターからプロフィットセンターへ」という方針が示されており、Flexeraレポートのグローバルトレンドと方向性が一致する。

クラウド戦略の今後

Flexeraレポートが示すトレンドから、今後のクラウド戦略の方向性を整理する。

短期(2026〜2027年)

  • GenAI基盤の統合: 各部門がバラバラに導入したGenAIツールを、全社的なAI基盤に統合する動きが加速
  • FinOpsの本格化: GenAIのコスト管理を含む高度なFinOpsプラクティスの導入
  • マルチクラウドのガバナンス強化: 複数クラウドにまたがるセキュリティ・コンプライアンスの統一管理

中期(2027〜2028年)

  • AIネイティブクラウド: クラウドプロバイダーがAI/MLを前提としたインフラ・サービスを標準提供
  • サステナビリティ指標の重要化: クラウドのカーボンフットプリント管理が評価指標に追加
  • エッジ-クラウド統合: 5G/6Gの普及に伴い、エッジコンピューティングとクラウドのシームレスな統合が進む

まとめ

Flexera 2026年クラウドレポートは、「GenAIの全員利用」と「評価軸のコスト→価値への転換」という2つの歴史的な転換点を明確に示した。エンタープライズのクラウド戦略は新たなフェーズに突入しており、以下のアクションが求められる。

  1. GenAI活用の本格計画を策定する: まだ「実験段階」にとどまっている場合、全社的なGenAI活用ロードマップを策定する。コード生成・カスタマーサポート・データ分析の3領域から着手し、具体的なKPI(生産性向上率、対応時間短縮等)を設定して効果を計測する
  2. クラウドの評価指標を「ビジネス価値」に転換する: クラウドの成功をコスト削減率だけで測るのをやめ、「クラウドがビジネスにどれだけの価値を提供したか」を指標に加える。具体的には、クラウド上で稼働する新サービスの売上貢献、市場投入までの時間短縮、イノベーションのスピードを定量化する
  3. FinOpsを導入し、GenAIコストを可視化する: クラウド支出の可視化ツール(AWS Cost Explorer、Azure Cost Management等)を導入し、特にGenAI関連のGPUインスタンス・推論コストを分離して把握する。FinOps Foundationの認定トレーニングを受講し、財務部門とIT部門の連携体制を構築する

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