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Figure AIがホワイトハウスでFigure 3を披露——45カ国が注目したヒューマノイド外交

ホワイトハウスのイーストルームに、二足歩行のヒューマノイドロボットが立った。2026年3月26日、メラニア・トランプ大統領夫人が主催したグローバルサミットで、Figure AI の最新ヒューマノイドロボット「Figure 3」が45カ国の外交代表者の前でデモンストレーションを行った。ロボティクス企業がホワイトハウスで自社製品を披露する——これは米国の政治史においても、ロボティクス産業史においても前例のない出来事だ。

Figure AI は2022年創業ながら、累計で約$26億(約3,900億円)以上の資金を調達し、OpenAI、Microsoft、Nvidia、Jeff Bezos、Intel といった名だたるテック企業・投資家からの支援を受けている。今回のホワイトハウスでのお披露目は、ヒューマノイドロボットが単なるテクノロジーデモの領域を超え、米国の国家戦略的優先事項として位置づけられつつあることを示す歴史的なイベントとなった。

Figure 3 とは何か

Figure 3 は、Figure AI が開発した第3世代の汎用ヒューマノイドロボットだ。前世代の Figure 02 から大幅に進化し、より人間に近い外観・動作・知能を実現している。

主要スペック

Figure 3 の公開されている技術仕様は以下の通りだ。

  • 身長: 約170cm(人間の平均的な体格に近い設計)
  • 重量: 約60kg
  • 自由度: 40以上(両手の指を含む全身の関節)
  • 歩行速度: 最大5.4km/h
  • バッテリー駆動時間: 約5時間(タスクにより変動)
  • 搭載AI: ビジョン・言語モデル(VLM)ベースの統合AI
  • ハンド: 16自由度の高精細ハンド(細かな物体操作が可能)

特筆すべきは、Figure 3 に搭載されている統合AIシステムだ。OpenAI との提携により、大規模言語モデル(LLM)と視覚認識を融合した**ビジョン・言語モデル(VLM)**が実装されている。これにより、自然言語での指示理解、環境認識、タスク計画の自律的な実行が可能になっている。たとえば「テーブルの上のコーヒーカップを棚に片づけて」という口頭指示を受け、ロボットが自律的に対象物を認識し、適切な動作を計画・実行できる。

ホワイトハウスサミットの全容

今回のサミットは「Global Robotics and AI Leadership Summit」と題され、メラニア・トランプ大統領夫人が主催した。参加したのは45カ国の外交代表者、政府関係者、産業界リーダーだ。

サミットの構成

サミットは3部構成で行われた。

  1. 基調講演: ヒューマノイドロボットが経済・社会にもたらすインパクトについて
  2. Figure 3 ライブデモ: ホワイトハウスのイーストルームでの実機デモンストレーション
  3. パネルディスカッション: 各国の規制フレームワークと国際協力について

Figure 3 のデモでは、ロボットが人間のスタッフと自然な会話を交わしながら、テーブルセッティングや書類の整理といったタスクを実行した。特に注目を集めたのは、フランス語で話しかけた外交官に対して英語で応答しつつ、指示されたタスクを正確にこなした場面だ。マルチリンガル対応と物理的タスク実行を同時に行えることが、参加者に強い印象を与えた。

政治的な意味合い

このサミットには明確な政治的メッセージが込められている。トランプ政権はAIとロボティクスを米国の国家競争力の柱と位置づけており、中国をはじめとする各国とのテクノロジー覇権争いにおいて、ヒューマノイドロボットを戦略的資産として扱う方針を示した形だ。

実際、トランプ政権は2025年後半から「AI and Robotics National Strategy」を推進しており、ヒューマノイドロボットの研究開発に対する連邦助成金の拡大、規制緩和、軍事利用の検討を進めてきた。今回のサミットは、その政策の延長線上に位置するものだ。

Figure AI の資金調達の歴史

Figure AI は2022年の創業からわずか4年で、ヒューマノイドロボット業界のリーディングカンパニーの座を確立した。その背景には、圧倒的な資金調達力がある。

以下の図は、主要ヒューマノイドロボット企業の資金調達額を比較したものだ。

主要ヒューマノイドロボット企業の累計資金調達額を比較した棒グラフ

この図は、Figure AI がヒューマノイドロボット業界において突出した資金調達を実現していることを示している。Tesla Optimus は社内プロジェクトのため外部資金調達額は算出困難だが、Tesla の年間R&D予算の一部が充てられていると推定される。

資金調達の時系列

Figure AI のこれまでの主な資金調達ラウンドは以下の通りだ。

ラウンド時期調達額主要投資家評価額
シード2022年Q4$70M(約105億円)Parkway Venture Capital非公開
シリーズA2023年Q1$100M(約150億円)Intel、Align Ventures非公開
シリーズB2024年Q1$675M(約1,013億円)Microsoft、OpenAI、Nvidia、Jeff Bezos$2.6B
シリーズB拡張2024年Q3$300M(約450億円)既存投資家$5B
シリーズC2025年Q2$800M(約1,200億円)Nvidia、Microsoft、Intel、AMD$8B
追加調達2026年Q1非公開非公開$10B超(推定)

注目すべきは、投資家の顔ぶれだ。OpenAI(AI技術提携)、Microsoft(クラウド&AI基盤)、Nvidia(GPU&ロボティクスプラットフォーム)、Jeff Bezos(Amazon倉庫自動化の視点)と、それぞれ異なる戦略的意図を持つ投資家が名を連ねている。これはFigure AI が単なるロボットメーカーではなく、AI・クラウド・半導体のエコシステム全体を巻き込むプラットフォーム企業として評価されていることを意味する。

主要マイルストーン

Figure AI はこの4年間で、驚くべきスピードでマイルストーンを達成してきた。以下のタイムラインでその歩みを振り返る。

Figure AIの2022年創業から2026年ホワイトハウスサミットまでの主要マイルストーンタイムライン

この図は、Figure AI が創業から4年足らずでプロトタイプ→量産前→ホワイトハウス招待というステップを駆け抜けたことを示している。

技術的マイルストーンの詳細

  • 2023年5月: Figure 01 プロトタイプ公開。初めて二足歩行に成功
  • 2023年10月: BMW との提携を発表。サウスカロライナ州の工場での試験運用を開始
  • 2024年1月: OpenAI との技術提携を公式発表。VLM の共同開発に着手
  • 2024年3月: Figure 01 がコーヒーを淹れるデモ動画を公開。自然言語での指示理解を実証
  • 2024年8月: Figure 02 発表。全面的に再設計され、16自由度ハンド、改良されたバッテリーシステムを搭載
  • 2025年2月: BMW スパルタンバーグ工場で Figure 02 が本格稼働開始
  • 2025年6月: Figure 3 の開発開始をアナウンス
  • 2025年11月: Figure 3 プロトタイプの社内デモが報道される
  • 2026年3月: ホワイトハウスサミットで Figure 3 を正式お披露目

Tesla Optimus との競争

ヒューマノイドロボット市場を語るうえで避けて通れないのが、Tesla Optimus(旧称 Tesla Bot)との競争だ。両者のアプローチには明確な違いがある。

Figure AI vs Tesla Optimus 比較表

項目Figure AI (Figure 3)Tesla (Optimus Gen 3)
創業/開始2022年(スタートアップ)2021年(Tesla社内PJ)
累計資金$2.6B以上(外部調達)Tesla R&D予算の一部
AI基盤OpenAI VLM + 自社モデルTesla FSD ベースの自社AI
製造体制BMWとの提携、自社工場計画中Tesla Gigafactory で量産
想定価格$50,000〜$80,000(推定)$20,000〜$30,000(Musk公言)
初期ターゲット製造業、物流倉庫Tesla工場内、家庭向け
強みAI技術の先進性、パートナーシップ量産能力、垂直統合、低価格
弱み量産体制が未確立汎用性の実証が不十分
商用化時期2025年(BMW工場で稼働中)2026年(Tesla工場内で稼働中)

Figure AI の強みはAI技術の先進性にある。OpenAI との提携により、自然言語理解と視覚認識を高度に統合したVLMを搭載しており、未知のタスクへの適応能力が高い。一方、Tesla の強みは圧倒的な量産能力と低コストだ。自動車製造で培ったサプライチェーンとGigafactoryの生産ラインを転用することで、競合の半額以下の価格を目指している。

その他の競合

ヒューマノイドロボット市場には、他にも有力なプレイヤーが存在する。

  • Boston Dynamics(Hyundai傘下): Atlas で知られる老舗。2024年に電動Atlas を発表し、Hyundai工場での稼働を開始
  • Unitree(中国): G1、H1 で低価格帯を攻める。G1 は約$16,000で販売中
  • 1X Technologies(ノルウェー): NEO をOpenAI の支援で開発中。家庭向けに特化
  • Agility Robotics: Digit で物流特化。Amazon との提携で倉庫運用を展開
  • Sanctuary AI: Phoenix で認知AI に注力。汎用知能ロボットを志向

ヒューマノイドロボット市場の展望

Goldman Sachs は2025年のレポートで、ヒューマノイドロボット市場が2035年までに$380B(約57兆円)規模に成長すると予測している。この成長を牽引するのは、製造業の人手不足、倉庫物流の自動化需要、そして高齢化社会における介護・サービス需要だ。

市場成長の3つのドライバー

1. 製造業の労働力不足 米国では製造業の求人充足率が依然として低く、2025年時点で約60万人の人手不足が報告されている。日本・韓国・ドイツなど先進国も同様の課題を抱えており、ヒューマノイドロボットはこのギャップを埋める有力な手段として期待されている。

2. AI技術の急速な進歩 LLM・VLM の発展により、ロボットの「知能」が飛躍的に向上している。従来のロボットは事前にプログラムされたタスクしか実行できなかったが、現在のAI搭載ヒューマノイドは自然言語での指示理解、未知環境での適応、マルチタスク処理が可能になりつつある。

3. コスト低下の見通し ヒューマノイドロボットの製造コストは急速に低下している。2024年時点で1台$100,000前後だったコストが、量産効果とサプライチェーンの最適化により、2028年頃には$20,000〜$30,000に達すると予測されている。これは新車1台分の価格帯であり、中小企業でも導入が現実的になる水準だ。

日本にとっての意味——超高齢社会の切り札になるか

日本はヒューマノイドロボットの開発において長い歴史を持つ。Honda の ASIMO(2000年〜2022年)は世界初の本格的なヒューマノイドロボットとして知られ、トヨタの T-HR3 やソニーの QRIO など、日本企業は早くからこの分野に取り組んできた。

しかし現在、ヒューマノイドロボット開発の主導権は米国と中国に移りつつある。Figure AI、Tesla、Boston Dynamics(米国)、Unitree、UBTECH、Fourier Intelligence(中国)が巨額の資金と最新のAI技術を武器に急速に進化しているのに対し、日本勢は目立った新規参入が少ない。

日本が注目すべき3つのポイント

1. 介護・サービス分野での需要 日本は世界最速で高齢化が進む国の一つであり、2030年には介護人材が約69万人不足すると予測されている。ヒューマノイドロボットが介護補助・生活支援の分野で実用化されれば、社会的インパクトは計り知れない。Figure 3 のような汎用ヒューマノイドが、将来的に日本の介護施設で稼働する可能性は十分にある。

2. 製造業の競争力維持 日本の製造業は高い品質管理能力で知られるが、労働人口の減少が深刻な課題だ。BMW が Figure AI と提携して工場にヒューマノイドを導入しているように、日本の自動車・電機メーカーも同様の取り組みを検討する必要がある。トヨタやホンダがヒューマノイドロボット企業との提携や自社開発の再強化に動く可能性が高い。

3. 規制と社会受容 ホワイトハウスサミットが示したように、ヒューマノイドロボットの普及には国家レベルの政策的支援が不可欠だ。日本政府も「ロボット新戦略」の改定や、ヒューマノイドロボットに特化した規制ガイドラインの策定を急ぐ必要がある。特に、公共空間でのロボット運用に関する安全基準、データプライバシー、責任の所在に関する法整備が求められる。

日本企業の動向

直近では、ソフトバンクが2025年にノルウェーの1X Technologies に追加出資を行い、日本市場向けのヒューマノイドロボット導入を検討していることが報じられている。また、トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)は独自のヒューマノイド研究を継続しており、「Large Behavior Models」と呼ばれるAI技術でロボットの汎用性向上に取り組んでいる。

日本がこの分野で再び存在感を示すためには、AI技術への投資強化グローバルなエコシステムへの参画が鍵になるだろう。

まとめ

Figure AI のホワイトハウスでのデモンストレーションは、ヒューマノイドロボットが「研究室の実験」から「国家戦略のアジェンダ」へと移行したことを象徴する出来事だ。45カ国の外交代表者が見守る中で Figure 3 が披露されたことは、この技術が経済・外交・安全保障のすべてに関わる重要性を持つと認識されていることの証だ。

今後の動向を追ううえで、以下のアクションステップを提案する。

  1. Figure AI と Tesla Optimus の量産競争を注視する: 2026年後半から2027年にかけて、両社の商用ヒューマノイドの出荷台数と導入事例が本格化する。特に製造業・物流業での実績データが市場の方向性を決定づける
  2. 日本のロボティクス政策の動向をチェックする: ホワイトハウスサミットを受け、日本政府も対応を迫られる可能性が高い。経産省・内閣府のロボット関連政策の更新に注目したい
  3. AI搭載ヒューマノイドの技術進化をフォローする: OpenAI の VLM、Google DeepMind の RT-X、Nvidia の Isaac/GR00T といったAIプラットフォームの進化が、ヒューマノイドの実用性を左右する。これらの技術動向を継続的にウォッチすることが重要だ

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