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AWS×Google Cloudが業界初のネイティブ接続を実現

セットアップ期間が「数週間」から「数分」に短縮——AWSGoogle Cloudが、ハイパースケーラー同士では業界初となるネイティブなマルチクラウドネットワーキングサービスのプレビューを共同で公開しました。これまでMegaportやEquinixといったサードパーティを経由しなければ実現できなかったクラウド間のプライベート接続が、両社のコンソールから数クリックで構成できるようになります。

Gartnerの調査によると、大企業の**76%**がすでに2社以上のクラウドプロバイダーを利用しており、マルチクラウドは「選択肢」ではなく「前提」になりつつあります。しかし、クラウド間の接続はこれまで大きな運用負荷を伴う領域でした。今回の発表は、その課題を根本から解消する可能性を持っています。

マルチクラウド ネイティブ接続とは何か

今回発表されたサービスは、AWSの「AWS Interconnect」とGoogle Cloudの「Cross-Cloud Interconnect」を統合したものです。従来は、2つのクラウド間をプライベートネットワークで接続する場合、物理的なコロケーション施設やサードパーティのネットワークサービスプロバイダーとの契約が必要でした。

新しいネイティブ統合では、以下の仕組みで直接接続が実現します。

  1. AWS側: AWSコンソールからInterconnectエンドポイントを作成し、Google Cloud側のプロジェクトIDを指定
  2. Google Cloud側: Cross-Cloud Interconnectでピアリングリクエストを承認
  3. 自動プロビジョニング: 両社のバックボーンネットワーク上で暗号化されたプライベートトンネルが自動的に確立
  4. ルーティング設定: BGP(Border Gateway Protocol)を使用して、両クラウドのVPC間でルート情報を自動交換

この図は、AWS と Google Cloud のネイティブ統合によるマルチクラウド接続の全体アーキテクチャを示しています。

AWS × Google Cloud マルチクラウド ネイティブ接続アーキテクチャ - 両クラウドのワークロードがInterconnectエンドポイントを介してプライベートに直接通信する構成

このアーキテクチャの最大の特徴は、通信がパブリックインターネットを一切経由しない点です。両社のバックボーンネットワークを直接接続するため、レイテンシの低減、帯域幅の安定性、そしてセキュリティの向上が同時に実現します。

プレビューの提供範囲と対応リージョン

現在プレビューとして利用可能なリージョンは、米国と欧州を中心とした5拠点です。

リージョンAWSGoogle Cloud
バージニア北部us-east-1us-east4
オレゴンus-west-2us-west1
フランクフルトeu-central-1europe-west3
アイルランドeu-west-1europe-west1
ロンドンeu-west-2europe-west2

対応する接続帯域は 10Gbps および 100Gbps の2種類が提供されます。プレビュー期間中はデータ転送料金が無料となっており、一般提供(GA)後の料金体系は2026年後半に発表される見込みです。

参考として、現在のサードパーティ経由でのマルチクラウド接続は、帯域や拠点にもよりますが月額数十万円〜数百万円のコストが発生するのが一般的です。ネイティブ統合によってサードパーティの中間マージンが不要になるため、GA後も従来方式より30〜50%程度のコスト削減が見込まれるとアナリストは予測しています。

従来方式との比較

これまでのマルチクラウド接続と、今回のネイティブ統合方式を比較すると、その違いは歴然です。

以下の図は、従来のサードパーティ経由方式と新しいネイティブ統合方式の接続フローを比較したものです。

従来方式 vs ネイティブ統合方式の比較 - サードパーティ経由の複雑な構成がシンプルなダイレクト接続に置き換わる

従来方式では、AWSとGoogle Cloudの間にサードパーティのネットワークサービスが介在するため、契約・設定・障害対応のいずれにおいても複雑さが増していました。

項目従来方式(サードパーティ経由)新方式(ネイティブ統合)
セットアップ期間数週間〜数ヶ月数分
必要な契約AWS + サードパーティ + Google Cloud(3社以上)AWS + Google Cloudのみ(2社)
物理設備コロケーション施設でのクロスコネクトが必要不要(仮想接続)
障害時の責任分界点3社間で不明確になりがちAWS・Google Cloudが各自の領域を保証
設定方法各社の管理画面・CLI + サードパーティポータル各クラウドのコンソールのみ
セキュリティサードパーティ経由のため暗号化設定が別途必要エンドツーエンド暗号化が標準
月額コスト(10Gbps想定)50〜150万円程度プレビュー中は無料、GA後は低価格化見込み
対応クラウド理論上は任意のクラウドを接続可能現在はAWS ↔ Google Cloud のみ

従来方式の最大のメリットは柔軟性で、任意のクラウドやオンプレミス環境を接続できる点です。一方、ネイティブ統合は対応クラウドが限定される代わりに、圧倒的なシンプルさとコスト効率を実現しています。

Microsoft Azure の対応と3大クラウドの今後

AWSとGoogle Cloudは、2026年中にMicrosoft Azureとの相互接続も対応予定であることを明らかにしています。これが実現すれば、3大ハイパースケーラー間でネイティブなマルチクラウド接続が可能になり、クラウド業界の勢力図に大きな影響を与えることは間違いありません。

クラウド市場のシェア(2025年第4四半期、Synergy Research Group調べ)を見ると、以下の構図です。

  • AWS: 31%
  • Microsoft Azure: 25%
  • Google Cloud: 12%

上位3社で市場の約70%を占めており、これらの間でネイティブ接続が確立されれば、実質的に「マルチクラウドのための追加インフラ」という概念自体がなくなる可能性があります。

サードパーティのネットワークプロバイダー(Megaport、Equinix Fabric、Console Connectなど)にとっては脅威となりますが、オンプレミスとクラウドを接続するハイブリッドクラウドの領域では引き続き需要があるため、完全に市場が消滅するわけではないと見られています。

日本のマルチクラウド戦略への影響

日本企業のマルチクラウド現況

総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、日本企業のクラウド利用率は**78.5%に達しており、そのうち42%**が複数のクラウドサービスを利用しています。しかし、その多くは「結果的にマルチクラウドになった」パターンであり、戦略的なマルチクラウドアーキテクチャを構築している企業は限定的です。

その最大の障壁が、まさにクラウド間の接続の複雑さとコストでした。今回のネイティブ統合は、この障壁を劇的に下げる可能性があります。

規制産業への恩恵

特に大きな恩恵を受けるのは、金融や医療といった規制の厳しい業界です。

  • 金融業界: 金融庁のガイドラインでは、クラウド利用における可用性確保として「特定のクラウドプロバイダーへの過度な依存を避ける」ことが推奨されています。ネイティブ統合により、AWSとGoogle Cloudにワークロードを分散させつつ、両環境間でシームレスなデータ連携が可能になります
  • 医療業界: 3省2ガイドラインに準拠したデータ管理において、クラウド間でのプライベート接続は、患者データの安全な転送に不可欠です。パブリックインターネットを経由しないネイティブ統合は、コンプライアンス要件を満たしやすくなります

日本リージョンの展開時期

現時点では日本リージョン(東京・大阪)はプレビューの対象外です。ただし、AWSとGoogle Cloudの両社が日本での需要の高さを認識していることから、GA(一般提供)開始のタイミングでアジア太平洋リージョンへの拡大が発表される可能性は高いと考えられます。

日本市場においては、NTTコミュニケーションズの「Flexible InterConnect」やKDDIの「TELEHOUSE」といった国内のネットワークサービスプロバイダーも存在するため、ネイティブ統合の料金体系や日本リージョンの対応状況を見極めたうえで、最適な接続方式を選択することが重要です。

料金体系と導入コストの見通し

現在のプレビュー期間中は、接続の設定およびデータ転送料金はともに無料です。

GA後の料金について公式発表はまだありませんが、既存のDirect ConnectやCloud Interconnectの料金体系から推測すると、以下のような価格帯が予想されます。

項目従来方式の参考価格ネイティブ統合の推定価格
接続ポート(10Gbps)月額 約15〜25万円月額 約10〜18万円
接続ポート(100Gbps)月額 約80〜120万円月額 約50〜85万円
データ転送(1TBあたり)約1〜3万円約0.8〜2万円
サードパーティ仲介費用月額 約10〜50万円不要
初期セットアップ50〜200万円実質無料(コンソール操作のみ)

※上記は業界アナリストの推定であり、実際の価格は異なる場合があります。1ドル=150円で換算。

特に初期セットアップ費用とサードパーティ仲介費用が不要になる点は、中規模企業にとって大きなメリットです。従来は大企業でなければ現実的でなかったマルチクラウドのプライベート接続が、より幅広い企業に開放されることになります。

まとめ:今すぐ取るべきアクションステップ

AWSとGoogle Cloudのネイティブ統合は、マルチクラウド戦略の実行ハードルを根本的に下げる画期的なサービスです。プレビュー期間中の今こそ、以下のステップで準備を進めることをお勧めします。

  1. プレビューに申し込む: AWSのInterconnectとGoogle CloudのCross-Cloud Interconnectのプレビューに登録し、検証環境で接続テストを実施する。プレビュー中は無料のため、コストリスクなしで技術検証が可能
  2. 現行のマルチクラウド接続コストを棚卸しする: サードパーティ経由の接続を利用中の場合、月額コスト・帯域利用率・障害頻度を洗い出し、ネイティブ統合への移行で得られるコスト削減効果を試算する
  3. マルチクラウドアーキテクチャの設計を見直す: ワークロードの配置先を「コスト」「レイテンシ」「コンプライアンス」の3軸で再評価し、AWSとGoogle Cloudへの最適な分散戦略を策定する
  4. 日本リージョン対応を注視する: GA発表時にアジア太平洋リージョンの対応が含まれるかを確認し、対応次第ですぐに本番移行できるよう準備しておく
  5. Azure対応の動向もウォッチする: 2026年中に予定されているMicrosoft Azureとの相互接続が実現すれば、3大クラウドすべてをネイティブに統合できるようになる。自社の利用クラウドに応じて、中長期のネットワーク戦略に組み込む

マルチクラウドは、もはや一部の大企業だけのものではなくなりつつあります。ネイティブ統合の波に乗り遅れないよう、今のうちから情報収集と技術検証を始めておきましょう。

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